第101話 セドリックに引き渡された後

文字数 2,134文字

 サイラスが出て行った扉の方に、セドリックが大股で近づいたかと思ったら、カタンと鍵をかけた音がした。

「あの……なんで、鍵を」
 かけたのでしょう? って怖くて続けられなかった。
「ん? 邪魔が入らないように……かな? とりあえず、座ったら?」
 ソファーの方に促されたので、私は大人しく座った。
 セドリックが各執務室に備え付けの茶器でお茶を入れてくれている。

「どうぞ。急だったからお茶菓子は無いけど」
「いただきます」
 一口飲む。
「美味しい」
 少し、甘い香りがしてちゃんと茶葉のコクも出てる。
 お茶の温かさもあって、人心地付いた。
 たいがい、セドリックも何でも出来るな。

「でもまぁ、よくサイラスがこっちに連れてきてくれたよな。こんだけ、無防備になつかれてるんだったら、俺に内緒で連れ立っていくことも出来たのに……」
 チロッと私の方を見てセドリックは独り言のように言う。
 もう、先程までの怖さは無くなっていた。
「セドリック様?」
「どうせ、この前のお礼とかの名目で、ホールデン侯爵家を探ろうと思ってたんだろ?」
「はい」
 バレバレですね。
「サイラスと一緒だったら大丈夫だと思った? この前の、クリフォードとの時のように……」
「セドリック様も一緒にとの条件が付きましたけど」

「アボット侯爵が、リナちゃんを取り込むつもりはありませんと意思表示したんだよ。だから、婚約者(ほごしゃ)同伴ってね」
 セドリックは、穏やかに言っている。
 そして、私の前まで来て跪くように座る。
 丁度ソファーに座った私と目線が合うように。
「サイラスとホールデン侯爵家に、行ってたらどうなってたと思う?」
「あの……ごめんなさい。どうなってたかなんて、分からない……です」
 セドリックが穏やかに優しく訊いて来るのに、私は焦ってしまっていた。
「うん。分かっててやってたら、俺、本気で怒ってたよ」
 セドリックは、なるべく穏やかに言いながら、言葉を選んでるみたい。

「この場合の取り込まれるって、どういう事かわかる? 多分、行ったらその日のうちに帰って来れなかったと思うよ」
 あ~、なるほど……ってまずいじゃん。
 いや、本当によく利用せずこっちに連れてきてくれたよ。
 子ども扱いに慣れすぎて、自分がそういう対象になってるって忘れてた。
 前の世界の時の方が、よほど男性に対して警戒してた。

「ごめんなさい」
 これは、もう。分かって無くても、セドリックに対する裏切りに近い。
 自分の手を、包んでくれているセドリックの手ごと持ち上げて、口付けた。そのまま、自分の頬に寄せる。
「こっちも、その手の話、どう言って良いのか分からなくて、避けてたから……。ごめん。言わないと分からないよね」
 なんか、セドリックの口調が子どもを諭すようになってる。
 最初の怖い雰囲気消したのも、私の為なのかな。
 この前怒られたとき、泣きそうになったから……私、本当にどんな顔してたんだろう。

 これは、多分怒られた方がマシなんだろうな。
 セドリック、どんどん私に対して感情セーブしていってる。このままじゃ取り返しの付かないことになりそう。

「それでも、セドリック様には怒る権利があると思いますが。それとも、とるに足らない子どもの所業という位置づけですか……」
 私は、セドリックの手を離した。
「そんなこと言ってるんじゃ、ないだろう?」
「そういう態度でしょ? だって、今回たまたま、仕事の延長線上での雑談で出た話だったから、団長が部下扱いでここに連れて来てくれただけですもの」
 多分、これが正解。
 そういう扱いじゃなかったら、これ幸いとホールデン侯爵家に連れて行かれてた。

「あ~、そういうこと。それで? リナちゃん。俺は、取るに足りない子どもだなんて1度だって思った事無いけど?」
「そうですか? 私だけがセドリック様のこと好きなんだと思ってました。まぁ、私から言い出した政略結婚なのでしかたないんですけど……」
 サラッと、セドリックの手が私の頬から髪にかかる。
 気が付いたらキスされてた。唇が触れるだけのキスじゃ無い、ちゃんとした大人の……。頭の中、真っ白になりそう。

「ちゃんと、俺も好きだと言ってるだろ」
 ボーッとして、セドリックを見てると、額と頬にキスされて……。
「まだお互いある程度仕事が出来るようになるまで、結婚の段取りつけれないんだから、煽らないでくれ」
「へ?」
「あのさぁ。リナちゃんの考えなんか分かるんだよ。分かってて子ども扱いしてるんだから、子どもでいてくれよ。頼むから」
 セドリックが私から離れて、鍵を開けに行く。

「今回の事は、教えてなかった俺が悪い。子ども扱い以前にリナちゃんは悪くない。だから、サイラスの怒りも俺に向かってただろう?」
 そう……だっけ?
「とにかく、つぎ何か行動を起こすときは、俺を巻き込んでくれ。俺のことを好きでいてくれるって言うのなら、ちゃんとそういう覚悟して」
「分かりました」
 本当に、分かってるのか? って顔されたけど。
 セドリックを巻き込む覚悟なんて出来てないけど。
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