第92話 リナ・ポートフェンのこと セドリック編
文字数 2,012文字
リナちゃんには悪い癖がある。
最初こそ警戒してみせるものの、一度気を許してしまうと相手をとことん信用してしまうという。
実際、リナちゃんの周りにいる男で本当に安全なのは……リナちゃんの家族はともかく……宰相とうちの親父くらいじゃ無いかな。
二人とも完全に保護者気分だし。
あの二人なら、なんらかの命令があっても、リナちゃんの盾になるだろう。それだけの権力 もあるしな。
リナちゃんは、普段16歳とは思えない外見の幼さとは裏腹に、大人の顔をして堂々と論議を展開する。
色々な事柄に対する態度も対応も……時折、俺よりはるかに大人で。まるで年上と話している気分になってしまう。
国王陛下もそこに目を付けて、『学園在籍中の王太子と第二王子の安全確保』なんて、依頼 を出したのだろうけど。
字面 だけ追えば簡単なお仕事だ。学園内は安全だ。何もしなくても大人たちの手に寄って守られている。だけど、この『学園在籍中』というのは依頼 の期限だ。
子どもとして、守られるその期間に何とかしなければ、下手をすれば内乱にまで発展するだろう。
いくら制度が整えられても、それだけ側室の子が王位を継ぐというのは、難しいものなのだから。
そして、次世代のことは次世代の間で何とかしなければならない。
現政権の国政を護る為の『国王陛下やその側近は関われない』という制約があるからだ。
だからこそ、リナちゃんは最初からアボット侯爵やホールデン侯爵を側近に復帰させることを目指してた。
それこそ、海外からの侵入者が来る前から……。
そうして、リナちゃんは騎士団という軍部を統括する俺の親父に目を付ける。
自分の行動をきっかけに軍部に動かれたら困るもんな。うん、俺でもそう考えるよ。
だから、俺との婚約を使ってまで、交渉を成立させたのだと思っていた。
はっきり、後悔したよ。なんで、好きな娘 と政略結婚しないといけないんだ。両想いならまだしも。
情けない。感情なんか簡単にコントロールできると思っていた。
リナちゃんは、平然としてる。俺がサイラスとのことを怒っても、意味が分からないという顔をされる。
まるで俺になんの感情も持っていないみたいに……。
市場調査の帰り。リナちゃんは俺の怒りを知りながら、平然と仕事の話を始めた。
もう、諦めなきゃな。リナちゃんは婚約者だけど、所詮は政略結婚の相手だ。
そう思っていたから、馬車を降りて二人っきりになったとき、謝ってきたリナちゃんに素っ気ない態度を取った。
だから、不意打ちを喰らったんだ。
「私はセドリック様に見捨てられるのが一番怖かったんです。見捨てられたと思った瞬間、足下が崩れ落ちた気がして……涙が出ました。今も、同じです。私がしんどくても頑張れるのは、貴方が見捨てないって言ってくれたから……」
俺は戸惑った。だってそれって……。
「俺のこと、好きって言ってるように聞こえるけど……」
「先日の騎士団長の大爆笑の原因は『結婚は、好きな人としたい』って言ったことです」
真っ赤な顔でリナちゃんが言う。
ーダメだ。クラクラする。理性が飛びそう。
一歩引かなきゃ、そのまま自分の部屋に連れ込んでしまう。
そういうことを、ほのめかして言うと。
『あ……はい。了解っす』ってリナちゃんの心の声が聞こえた気がした。
あっ、そういう警戒心は、あるんだ。一応。
危険に自 ら突進していく姿勢は変わらないけどね。
この分じゃ、サイラスが部下扱いで、庇ってくれる部分も多いんだろう。
サイラスの上司のハズが、いつの間にか、部下扱いになっているしね。
さすがだよ、リナちゃん。部下に甘いという、サイラスの弱点を、見事に突いてる。
そんなことばかり、考えてたから俺は間違えてしまったんだ。
リナちゃんに、多分絶対に言ってはいけない言葉を言ってしまった。
サイラスに嫉妬して、イラついた気持ちのまま。感情をぶつけてしまったんだ。
「この前、宰相や俺が言ったこと、理解してないだろう。それとも分かってて、取り込まれようとしてるのか?」
しまった、と思ったときは遅かった。
「セドリック様は、そんな風に思うのですか? 私が取り込まれたがってると」
リナちゃんの声がこころなしか震えてる。
心細そうな……、親に見捨てられた子どものような。今にも泣きそうな顔をして、俺を見てる。
俺は……、俺だけはこんなこと言っちゃいけなかったんだ。
あんなに、はっきり意思表示してくれてたのに。俺のこと特別だって。
「いや……ごめん。思ってない。リナちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。」
言い訳しながら抱きしめた。まだ、腕の中で震えてる。
そんな顔見せられたら、嫌でも実感してしまう。
リナちゃんは俺より5歳も年下の女の子なんだって……。
ああ……、だから宰相や俺の親父はリナちゃんの事を、保護者として甘やかしているのか。どんなに大人びて見えても、まだ子どもなんだから……と。
最初こそ警戒してみせるものの、一度気を許してしまうと相手をとことん信用してしまうという。
実際、リナちゃんの周りにいる男で本当に安全なのは……リナちゃんの家族はともかく……宰相とうちの親父くらいじゃ無いかな。
二人とも完全に保護者気分だし。
あの二人なら、なんらかの命令があっても、リナちゃんの盾になるだろう。それだけの
リナちゃんは、普段16歳とは思えない外見の幼さとは裏腹に、大人の顔をして堂々と論議を展開する。
色々な事柄に対する態度も対応も……時折、俺よりはるかに大人で。まるで年上と話している気分になってしまう。
国王陛下もそこに目を付けて、『学園在籍中の王太子と第二王子の安全確保』なんて、
子どもとして、守られるその期間に何とかしなければ、下手をすれば内乱にまで発展するだろう。
いくら制度が整えられても、それだけ側室の子が王位を継ぐというのは、難しいものなのだから。
そして、次世代のことは次世代の間で何とかしなければならない。
現政権の国政を護る為の『国王陛下やその側近は関われない』という制約があるからだ。
だからこそ、リナちゃんは最初からアボット侯爵やホールデン侯爵を側近に復帰させることを目指してた。
それこそ、海外からの侵入者が来る前から……。
そうして、リナちゃんは騎士団という軍部を統括する俺の親父に目を付ける。
自分の行動をきっかけに軍部に動かれたら困るもんな。うん、俺でもそう考えるよ。
だから、俺との婚約を使ってまで、交渉を成立させたのだと思っていた。
はっきり、後悔したよ。なんで、好きな
情けない。感情なんか簡単にコントロールできると思っていた。
リナちゃんは、平然としてる。俺がサイラスとのことを怒っても、意味が分からないという顔をされる。
まるで俺になんの感情も持っていないみたいに……。
市場調査の帰り。リナちゃんは俺の怒りを知りながら、平然と仕事の話を始めた。
もう、諦めなきゃな。リナちゃんは婚約者だけど、所詮は政略結婚の相手だ。
そう思っていたから、馬車を降りて二人っきりになったとき、謝ってきたリナちゃんに素っ気ない態度を取った。
だから、不意打ちを喰らったんだ。
「私はセドリック様に見捨てられるのが一番怖かったんです。見捨てられたと思った瞬間、足下が崩れ落ちた気がして……涙が出ました。今も、同じです。私がしんどくても頑張れるのは、貴方が見捨てないって言ってくれたから……」
俺は戸惑った。だってそれって……。
「俺のこと、好きって言ってるように聞こえるけど……」
「先日の騎士団長の大爆笑の原因は『結婚は、好きな人としたい』って言ったことです」
真っ赤な顔でリナちゃんが言う。
ーダメだ。クラクラする。理性が飛びそう。
一歩引かなきゃ、そのまま自分の部屋に連れ込んでしまう。
そういうことを、ほのめかして言うと。
『あ……はい。了解っす』ってリナちゃんの心の声が聞こえた気がした。
あっ、そういう警戒心は、あるんだ。一応。
危険に
この分じゃ、サイラスが部下扱いで、庇ってくれる部分も多いんだろう。
サイラスの上司のハズが、いつの間にか、部下扱いになっているしね。
さすがだよ、リナちゃん。部下に甘いという、サイラスの弱点を、見事に突いてる。
そんなことばかり、考えてたから俺は間違えてしまったんだ。
リナちゃんに、多分絶対に言ってはいけない言葉を言ってしまった。
サイラスに嫉妬して、イラついた気持ちのまま。感情をぶつけてしまったんだ。
「この前、宰相や俺が言ったこと、理解してないだろう。それとも分かってて、取り込まれようとしてるのか?」
しまった、と思ったときは遅かった。
「セドリック様は、そんな風に思うのですか? 私が取り込まれたがってると」
リナちゃんの声がこころなしか震えてる。
心細そうな……、親に見捨てられた子どものような。今にも泣きそうな顔をして、俺を見てる。
俺は……、俺だけはこんなこと言っちゃいけなかったんだ。
あんなに、はっきり意思表示してくれてたのに。俺のこと特別だって。
「いや……ごめん。思ってない。リナちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。」
言い訳しながら抱きしめた。まだ、腕の中で震えてる。
そんな顔見せられたら、嫌でも実感してしまう。
リナちゃんは俺より5歳も年下の女の子なんだって……。
ああ……、だから宰相や俺の親父はリナちゃんの事を、保護者として甘やかしているのか。どんなに大人びて見えても、まだ子どもなんだから……と。