第19話 ジークフリート殿下の忠告

文字数 1,430文字

 エイリーン様と図書室で課題を終わらせたその帰り、私はわりと良い気分で女子寮の廊下を歩いていた。
 いきなり、背後から口を押さえられ連れて行かれそうになる。

 男の人だ。こんな力、ジタバタしても外れない。そもそも、足浮いているし。
 顔だけでも……一生懸命顔を動かした。
 え?
 ずらした拍子に口を押さえてた手が外れた。

「ジーク……フリートさま?」
 何でこんなところに。私は抵抗をやめた。
 ジークフリートの方も、私が抵抗を止め逃げないと分かったのか、すぐに解放してくれる。

「マクレガー様のお部屋は、もう1階上になりますが……」
「リナ嬢に会いに来た」
 ここ、女子寮なんですけど…特例ですかい。
 マリアは侍女としても王族の前に出れない身分なので、席を外してもらって、部屋に招き入れた。
 取り敢えず椅子に座ってもらって、紅茶を入れる。
 お茶菓子には、チョコレートボンボン。ちょっと高級。
 いつもの余裕の王子様スマイルは消えている。
「お口に合えばよろしいのですが」

 ジークフリートは、紅茶に口を付けた。王族は毒味役を介さない物には、一切口を付けない。学園の食堂にも、毒味役がいるくらいだし。
 だからこれは、「貴女を信用してます」というパフォーマンスだ。
 まぁ、毒なんて入れませんけどね。

「エイリーンに近付かないでもらえないか」
 はぁ、いきなりですか。
「はぁ。レポート、やっぱり自力でやらないとダメですかね」
 ボケてみた……。いや~っ、溜息付かないでぇ~。

「セドリックから頼まれたのか」
「いいえ」
 これ、本当。
「頼まれたと言えないのは、分かっている。だけど……」
 信じてもらえない、まぁ、そうか。
 何か言いよどんでいる。って言うか、私相手にいって良いのか、迷っているようだ。

「その……、今君の立場は、アラン寄りに見える。君がどう思っていても、セドリックがそう見えるようにしていたからな」
 やっぱり、そう見えてたか。
「その君が、エイリーンと仲良くなったら、周りはどうとらえると思う?」
「周り……ですか?」
「見ようによっては、君の行動はエイリーンをアラン側に取り込もうとしているように取れるんだ。君はエイリーンと仲良くなるだけで良い。後は、セドリックが、上手く立ち回るだろうからな」
 黙っている私を見て、優しい目になる。ショックを受けたように見えたか。

「ごめんね。信用してた人に利用されたなんて、信じたくないかもしれないけど……」
 いや、ご心配なく。()()()()()()()セドリックを信用したことは、一度たりとも無いので。
 それから、ジークフリートはものすごく言いにくそうに

「私の派閥にも、過激派がいてね。君はそういう場合の保護対象に入ってないから、とても危ないんだよ」
 へぇ~。
「あの。学園内って危なくないって訊いたんですが」
 誰からとは言わない。不安そうに、聞こえるかな。
「さっき、私相手に身動き取れなくなってただろう? 部外者は入れなくても、派閥の子息はいるよ。それに、学園から一歩外に出してしまいさえすれば、あとは関係無くなるからね」
 ジークフリートが怯えそうな女の子にこういう話を振ってくるって事は、公の過激派すら、抑え切れてないって事か。

 まぁ、アランもそうだろうしな。
 セドリックの根回しも、そっからか……。
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