第22.5話 男達の陰謀と王室への忠義(セドリック側)

文字数 2,167文字

 リナが男子寮を出て行った後。
 俺は、アルフレッドに、このまま部屋を使わせて欲しいと頼んだ。

「リナをあまり危ないところに、連れて行かないでくれないかな」
 アルフレッドは、ずっと不機嫌だ。
 俺だって好きでこんな事態になってるわけじゃない。
 だけど、アルフレッドに現実を見てもらって協力してもらわないと、リナまで危なくなってしまう。

 程なく、部屋の扉をノックする音がした。
 入ってきたのは、さっきリナに話していたデューク・リネハン。
 長身の少しかっちりしてる体格のわりに、優しい雰囲気を醸し出してる黒髪の少年だった。
「失礼します。セドリック様。ポートフェン様、お部屋を使わせてもらってすみません」
 穏やかな笑顔で挨拶をしてくる。

「あ……いや」
 アルフレッドは曖昧な返事をしている。
 リネハンといえばポートフェン家より格上の伯爵家だ。
 王太子殿下派で有りながら、親父さんの方がホールデン侯爵家、第二王子過激派トップに近付きすぎて、王太子暗殺の実行犯にされるのではないか、という噂。
 その、息子に対しての態度を決めかねているように見えた。

「噂くらいは知ってそうな顔だな。なら、話は早い」
 何にしろ、アルフレッドの頭の中に情報があって助かった。
「デューク、すまない。本当はもう少し時間をかけて、伯爵をこちら側に引き込みたかったんだが」
「あ……はい。分かっていました。僕も図書室を利用してましたし。王太子殿下から、情報は入ってましたから」
 デュークは笑顔で答えている。17歳にしては、大した精神力だとは思うが。

「エイリーンからの依頼は、保留にしていたのだけど。リナが夜会の件了承したから。実行してくれ」
「わかりました。それで、あの妹たちの件は……」
「大丈夫だ。俺の遠い親戚に預けるように手配している」
 ちゃんと手配はしてある、こんな事態に備えて。
 俺の返事に、デュークは、安堵した表情を浮かべた。

「セドリック。説明して欲しいんだが……」
 アルフレッドが言う。
「ああ。アルフレッドにも、協力して貰いたいからな。ただ、リナには言わないと約束してくれないか?」
「内容にもよるけどな」
 アルフレッドは、本当に用心深い。

「じゃ、大丈夫だ。とても(リナ)に聞かせられる内容じゃない」
 セドリックは、そう言って説明を始める。
「エイリーンからの依頼は、自分の誘拐依頼だ。このままだったら、リネハン伯爵が王太子殿下の暗殺を実行してしまうからな。その前に、リネハンに自分を誘拐させたら罪に問えるだろ? 王太子殿下の婚約者なんだから」
「そんな都合良く誘拐するか? 狙いは王太子殿下なんだろう?」
 そんなにバカなのか? とアルフレッドが訊いてくる。
「するさ、デュークが。夜会の前日にね」
 思わずアルフレッドは、デュークを見てしまった。
 その先は聞かなくても分かる。

「うちのリナが、エイリーン様に不用意に近付いたから、ホールデン侯爵家が焦って、計画を早めたってことか……」
 その通り。本当にうちの陣営に来てくれないかな? アルフレッド。
 力関係を考えたら、リネハン伯爵に拒否権は無い。
 最初は甘いこと言われて、近付いたのだろうが……。
 だけど、今回の事はリナの所為というよりは。
「俺の所為だろ? リナを利用しようとしてうろついて。素直に協力しなかったから。王太子側の過激派が動き出したら、リネハン伯爵は身動きがとれなくなるからな」
 本当に、リナの性格を読めなかった俺の所為だ。

「リナは何も知らない子どもだ。必要な情報をあたえなかったのも、俺だしな。それに、リナには王太子暗殺の証拠書類を持って帰ってもらわないといけない」
 チラッとデュークを見る。
「はい。証拠になる書類は、まとめてあります。当日は夜会が始まってから、2階の執務室の机の上に封筒に入れて、置いておきますので。アルフレッド様が回収して貰えますか? リナ嬢が、持って行ったことにして」
「分かりました。あの……」

「リナ嬢の所為じゃないですよ。うちの親父の所為です。大切な妹さんを、危険なことに巻き込んでしまってすみません」
「デューク。当日はこれをリナに飲ませてくれ」
 俺は用意していた、睡眠薬の入った小瓶をデュークに渡した。
 これを飲めば2日くらい寝入ってしまう。リナが寝ている間に、全てが終わっているという寸法だ。

「それは?」
 リナに飲ませると聞いて、アルフレッドが訊いてくる。
「睡眠薬。2~3日寝てしまうけど、身体に害は無い。心配なら俺が少し飲もうか? ここで寝てしまっても、良いなら」
「鬱陶しいだけだ」
 だろうな。俺がアルフレッドでもそう言っている。
 さて、デュークに確認しないとな。

「デューク・リネハン。これを実行してしまったら、お前も処刑を免れなくなるけど。いいのか?」
「良いも悪いも無いでしょう。王太子殿下のお命の方が大切です。セドリック様」
「では、王太子殿下のために死んでくれ」
 イヤな命令だけど、俺の立場ではそう命令するしかない。
「かしこまりました」
 デュークは、穏やかな顔をしている。もう、何もかも諦めたような感じで。
「すまない。俺の力不足で……」
 そんな顔をさせてしまっているのは、俺だという自覚はある。
 中途半端な計画で、希望を持たせてしまった。

 アルフレッドはそんな俺たちを、ただ無言で見ていた。
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