第2話 現状把握 乙女ゲーム内の自分の姿

文字数 1,126文字

 なんか、イヤな予感がする。
 いや……ゲーム機持ったまま死んでるってのが一番イヤなんだけど……そうじゃなくて。
 こっちの現実問題……。

「ねぇ。マリア」
「はい。お嬢様」
「昨日……私、何してたっけ」
「昨日……で、ございますか?」
 まだベッドから抜け出せてない状態で、上体だけ起こして俯いている私を、マリアが怪訝そうな顔でのぞき込んできて、私の顔を見た瞬間、心配そうな顔に変わった。

「ごめんなさい。何か……記憶が混乱して……」
 いや、実際吐きそうだ。
 なんか、このゲームの主人公の記憶がザーっと頭の中に入ってきて、脳内処理が追いつかない。

「大丈夫でございますか? お顔の色が……。私、医務室に行ってお医者様を呼んで」
 慌ててベッドから離れるマリアの服を必死につかんだ。
「大丈夫だから。お願い、質問に答えて」
 マリアは、一瞬戸惑ったようだけど質問に答えてくれた。
「昨日は、この王立学園の入学式がございました。お嬢様は入学式後、王太子殿下に新入生歓迎夜会のパートナー申し込みをされたと言って、大層はしゃいでいらっしゃいました。夜会の後、この寮の部屋に戻られた後も、幸せな余韻を楽しまれてるようでしたが」

 そう言いながら、部屋にある水差しからコップに水を注ぎ持ってきてくれた。
 マリアは自分が見たままの事実だけを淡々と述べる。優秀な侍女だ。
 でも、これでハッキリした。夕べのことは夢じゃ無い。

 私は今、「シンデレラ・サクセスストーリー」という乙女ゲームの中にいる。

 マリアは茶色の髪をキュッと後ろで束ねて、裾が床に着くか着かないか位の長さの黒いメイド服を着ている。
 人物設定は無いが、主人公の自室のベッドがセーブポイントの1つになっているので、学園内でセーブするときには必ず出会う。

 マリアから受け取った水を飲み干すと、少し気分が良くなった。
 少し横になるからと、マリアを自室に戻した。マリアは渋ったが
「学園は明日からですので、今日はゆっくりお休み下さい。何かございましたら」
 と言いかけたのを、(さえぎ)って追い出した。ごめん、マリア。
 姿見が部屋の隅にあったので、ベッドから抜け出て全身映し出してみる。

 ゲーム内のアバターが鏡の中にいた。
 はちみつ色で少しウェーブのかかった長い髪。瞳はクリッとしてて大きく光の加減では金色に見える薄い茶色。
 意識して幼く見える顔を選んだ。
 実際見ると15という年齢設定より、かなり幼く見える。
 でもハッキリ言って、文句のつけようのないくらいの美少女だ。
 名前はリナ・ポートフェン。本名呼んで欲しくって、里奈…リナにした。
 喪女だよ、どうせ。
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