第17話 リナ・クランベリーの肩書

文字数 2,077文字

 国王陛下の執務室での陳情(おねがい)後、数日経ってから私は単独で外交の場に呼ばれていた。
 外交の方は、順調に進み。後はお互い友好のための使者を提示するのみとなっていた。
 グルタニカ王国からは、第四王女。姿絵を見る限りでは愛らしい7歳の姫君である。こちら側の10歳になる第五王子と歳も近く、仲睦まじく暮らしていけるのではないかとの事だった。

 そして問題はこちら側からの使者である。
 縁談の相手は第三王子のフランシス殿下。御年21歳の好青年である。
 なにも既婚のリナ・クランベリーを出さなくとも、王族にも釣り合う女性が大勢いる。


「失礼致します。リナ・クランベリー、入ります」
 私は案内され外交の部屋へ入る。
 服装は、騎士団司令官の礼服。
 完全に軍人としての礼を執って入って行った。

 グルタニカ王国の人々は、皆さん驚いて私を見ている。
 まさか、伯爵夫人である私が司令官の礼服を着てくると思わなかったのだろう。多分……。
 子どもが入ってきたとか思ってないよね。
 なんで、みんな優しい目で私を見るの? マリユス・ニコラまで。
 外交用の顔だよね、微笑ましく子どもを見ている顔じゃないよね。

 我が国の外交責任者は、アボット侯爵。
 その両隣が、ジークフリート殿下とホールデン侯爵。
 そして、文官としてクリフォードが記録係をしている。

 一方、グルタニカ王国側は、私が来ると言うので全員参加である。
 記録係はレオポルド・シャリエール伯爵が務めていた。
 ちなみに記録は、その都度双方が確認するようにして、齟齬(そご)が無いようにしている。

「こちらがお話に出ておりました。リナ・クランベリーです。クランベリー伯爵夫人であり、騎士団の司令官をしております」
 アボット侯爵がにこやかに私を紹介する。
 他国の軍事参謀を連れ帰ろうなんて、無謀でしょ? 断る理由としては充分な肩書だよね。

「リナ・クランベリー殿は、我が国に来ることに、どのようなお考えをお持ちですか?」
 穏やかな顔で、フランシス殿下が訊いてきた。
 外交上の場で、個人の意見を訊かれるとは思わなかったわ。
「私の意見、ですか?」
「はい。率直な意見を伺いたいのですが」
 う~ん。外交上の取引に使われるときは個人の意見や感情は一切考慮しないんだけどな。
 私は、アボット侯爵の方を見る。この場の責任者は彼だ。
「お答えして差し上げなさい。貴女の意見で構いません」
 なるほど。
「質問に答える前に、こちらから伺いたいことがあるのですが」
 私は、フランシス殿下にそう返した。
「構いませんよ」
 そう許可が出る。

「どうして私なのでしょう?」
 それだけを言った。答えにくい質問だとは分かっているけど、我が国の人間に聞かせたい。
「似ているのですよ。行方不明になっているリリアーナ姫に。ですので、他の方がこちらに来るよりは、国民も受け入れやすいと思ったのです」
 あ~。アバター設定の時に、髪と肌の色以外はリナと同じ感じで選んだから……。そりゃ、似るわよね。

「ありがとうございます。では僭越(せんえつ)ながら申し上げます。私との交換で、アルノー・リファール軍部司令官、シモン・アルシェ公爵をこちらに寄こしてください。その条件なら私は喜んでそちらに参りましょう」

「なにをっ」
 ガタンッと、デリック・ブランジェ公爵が立ち上がる。
 それを、フランシス殿下が手で制した。
「落ち着きたまえ。デリック」
 キースも落ち着いて座るように促す、そうして、私の方を向いて言う。
「クランベリー殿。それはいささか欲張り、というものでは無いでしょうか」

 欲張りかな? 今の言った2人。王太子派だけど、実は()()()()の人間なんだよね。
 この国でも、私の代わりをしてくれそうだし。
「そうでしょうか? 私は騎士団の司令官とは別に、国王代理という肩書も持っております。場合によっては、国王命令も出せる人間ですよ。事実上、国のトップに立っている人間を連れ帰ろうというのです」
 ここまで一気に言って、笑って見せる。
「ゆるいくらいの条件ではありませんか?」
 そう言うとフランシス殿下とキースも、フフッと笑ってしまっていた。

「今の話は本当ですか?」 
 ブランジェ公爵は、アボット侯爵に確認をとっている。
 マリユス・ニコラ伯爵は、心なしか私を睨んでいる気がした。
 いや、睨んでいるんだろうけどね。

「間違いありません。こちらの条件は、先ほどのものになりますが、どうなさいますか?」
 アボット侯爵は、内心は知らないけど、表面的には冷静に言っている。
「さすがに、そこまでの権限を私は持っていませんね。この件は無かった事にして頂けますか?」
 フランシス殿下は、当初の予定通りそう言って交渉をやめた。

 ヒヤヒヤするなぁ。
 交渉を成立させるつもりかと思ったよ。
 だけど、成立してしまっても良いだけの、条件を付けたから……。
 危ないよね。あの2人を動かすだけの権限も持ってそう。

「そうですな。そういう事でしたら、リナ・クランベリー」
 おもむろに、アボット侯爵が言う。
「ご苦労であった」
「失礼致します」
 私は来た時と同様に、礼を執って退出した。
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