第13話 王宮の夜会 フランシス殿下とのダンス

文字数 1,363文字

 使節団を招待して、王室主催の夜会が開催されていた。
 元々の予定では、次の日に帰国する予定だった使節団への送迎会的なもののハズだったのだけど。
 結界が閉じてしまっている今、交渉はのんびりムードで進んでいるが、中休みという事で、予定通り夜会を開催する事にした。
 今後、国交を結ぶという事になった時に、どちらの令嬢を嫁がせるのかという話にもなっているので、フランシス殿下の花嫁選びも兼ねているのだけど。

「なんでこんな事になっているのだろうね」
 フランシス殿下は、苦笑いをしている。
「うちの王太子殿下に、私を連れて帰りたいなんて事を言うからですよ」
 私は、フランシス殿下とダンスをしながらこの会話をしている。
「誰か、好みの子いました?」
 つい面白がって訊いてみた。
「君ねぇ。分かっていてそんなこと言うかな?」
「うん。分かっていても言ってみる」
 そう言ったら、フランシス殿下は呆れたような笑顔をしていた。

 だけど、私よりは安全だとはいえ。他の令嬢でも今のグルタニカ王国に渡るのには覚悟がいる。
 候補にあがっている令嬢たちは、その事を分かっているのだろうか?

「まぁ、キースの婚約者という名目で帰るよりは安全だからね」
「あちらの王太子殿下は、相変わらずですか」
 私もため息が出てしまった。

 時系列が分からないと思って、フランシス殿下に話を振ったら、ダンスを申し込まれた。
 ダンス中しか、内緒話が出来ない。
 グルタニカ王国では、第二王子が何者かに暗殺されたという話だった。

「それで……、あれは何です?」
 私の目線の先にいるのは、マリユス・ニコラ。
 記憶違いでなければ、表舞台に決して出て来ない王太子派の人間のハズだ。
「仕方が無いだろう? 付けられてしまったのだから」

 フランシス殿下にしては、失態だと思う。
 ライラを監視に付けたけど、格が違いすぎるわ。まず、バレていて見逃されていると言っていいだろうし。

 第二王子の暗殺といい。今回の使節団のメンバーと言い。
 フランシス殿下も、窮地(きゅうち)に追いやられているわね。
 しかも、我が国(うち)まで巻き込まれてしまう。

 キースは何をやっているんだか。
 やれやれ……。

「フランシス殿下。今だけで良いのでしたら、私の忠誠心を捧げますが」
「おや? 良いのかい」
 フランシス殿下は、色々言いたい事を飲み込んでいるようだけど、私がグルタニカ王国に行くわけにはいかないから。
 この国内のみ、今回限定の忠誠である。
「剣の指導をしてくださったお礼です。何のメリットも無いのに、私に付きあって下さったでしょう?」
「キースがね。2度と君の死に顔は見たくないそうだよ。だから、君の為じゃない」
 そっか。悠人が見付けたって言ったものね。私が部屋で過労死しているのを。

 フランシス殿下は、優しい。剣の訓練を、忠誠を捧げる事の交換条件にしない。
 そんなお方だから、前世……ゲームの中だけど、フランシス殿下に忠誠を誓ったんだ。そして共に、軍事クーデターを起こす予定で。
 ゲームの中だから、誰も死なない。
 強制ログアウトで、現実に戻るだけだから、考え出来た事。

 それが、どうしてこんな事になっているのだろう。

「曲が、終わるね」
 フランシス殿下が言う。
 つかの間の逢瀬を惜しむ恋人の様に……。

 フランシス殿下と私は、ダンスの最後の礼をして別れた。
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