第74話 リナちゃんは下町に行きたい 大衆食堂の情報収拾

文字数 1,449文字

 私が市場調査に行きたいと宰相に調整を依頼してから、数日後。
 騎士団長から護衛用にセドリックとフィルを借りて、宰相から調査の為にクリフォードを付けてもらって、私は馬車で下町に出かけて行った。

 一応、みんな庶民を意識した格好になってはいる……いるんだけど。
 露骨な剣も持ってないしね。
 いや、ガチの下町に着いてから気付いた私も私なんですが……。
 浮いてる。ものすっごく、浮いてる。何この集団。

 お肌スベスベ、髪の毛艶々。ほのかに良いにおい。
 あのフィルの日焼けパサパサの髪ですら、庶民から見たら艶々。

 こっちはわざわざ、使用人が使ってる石けんで何度も洗い。
 手も軽石でこすったり、髪だって洗いざらしにしてぎゅっと括ってるのに。
 服だって、いつものサラシ巻いた上で、使用人見習いの男の子の服を借りてきた。まぁ、ちょっと臭い。


 私は、比較的大きな…そこそこ人通りのある路地を迷った振りをして曲がった。
 あんな、貴族でございみたいな集団に紛れてたら。
 調査も何もあったもんじゃない。
 昼間だし人通りの多いとこだったら、大丈夫だろう。
 問題は……お金を持ってないことなんだよね。
 いや、私みたいなガキが町中で財布なんて持ってたら、あっという間に狙われるからねぇ。

 お腹すいた。
 お昼時で、あっちこっちから良いにおいがしてるんだよね。クスン。
 どっか、人手足りてなさそうな食堂無いかな。片っ端から行ってみるか。
「おかみさん。俺、雇ってよ。使いもんにならなかったら追い出してくれて良いからさぁ」
 同じセリフを、3軒も言ったら。使ってくれるとこが見つかった。
 しかも、先に昼飯出してくれた。盛大に、お腹鳴ってたもんね。
 少し固いパンとスープと鶏肉。前世、庶民だった私には十分おいしいご飯。


 食堂って良いよね。いろんな人が来て、いろんな話が聞けて。
 流通の話、町の噂話、商人情報。
 へたにお貴族様と市場調査するより、よっぽど情報が集まる。
 大学時代のバイト経験が役立ってるよ。

「おかみさん、定食とソーセージ大盛り。あと、生ビール」
「あいよ。これ持って行って」
「はい。お待たせ。熱いから気をつけてな」
「おう。ありがとよ」

「あれ? にいさん。潮のにおいがするね」
「おう。今日船がここに付いたんだ。()()は霧に包まれて中々見つからないから、ラッキーなのさ」
「霧?」
「おうよ。中にいたらわかんねーか」
 にいさんはガハハと豪快に笑う。機嫌良いな。
「ふ~ん。あっ、いらっしゃいませ~。じゃ、また」
「おう。頑張れよ、ボウズ」

「好きなとこ座ってくれな……と満席に近いな。あっち空いてるからあっち座ってな」
 と出した手をつかまれる。へ?
「リナちゃん、探したよ~」
 表面にこやかな、激おこセドリック? あれ? うわ~、みんな疲れてる。
「今、忙しいんだよ。飯食わないんだったら、よそ行きな」
 いや、マジ忙しい。夕方のピークの時間だからね。

「と……とりあえず、座りましょう。リナ様、適当におすすめで」
 クリフォードが焦って言った。
「定食3つと、とりあえず生ビール3丁」
 勝手に頼んだ。口に合うかどうか、わかんないけど。

 3人が座ったテーブルに生3つ持って行って、定食の盆も慣れた手つきでサッと出した。
 忙しさを理由に、そそくさと次の注文を取りに行った。

 この忙しさは、船が港についたからなんだね。
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