第21話 使節団の捕縛 (フランシスの側)

文字数 2,024文字

『マリユス・ニコラが、イングラデシア王国の軍部司令官を刺した』
 突然、僕の所にそんな報告が来た。多分、全員の所に伝令が行っているだろう。

 報告を受けた後、すぐイングラデシア王国側の近衛騎士たちがやって来る。
 リナが指揮を執れなくなった証拠だね。
 それでも一般の兵士が来るよりは、扱いが丁寧だ。

 僕は片手をあげ、近衛騎士たちの動きを制した。
「君たちに手を引いてもらわなくても、自分で歩けるよ。案内してもらえるかい? その牢獄とやらへ」
 そして笑って見せたのは、王族としての矜持だ。


 僕がたどり着いた頃には、使節団の人間がほぼそろっていた。
 犯人だろうマリユス・ニコラは見当たらなかったが。
 みんな大人しく連れて来られたようで、誰も捕縛はされていなかった。
 全員が、同じ牢に入れられる。

 マリユス・ニコラは現行犯で逮捕されている。
 僕たちは、いくら無関係だと言っても信じてもらえず、一緒くたに処刑されるだろう。
 リナは、この国の国王代理まで務められる重要な人物だから、仕方が無い。

「覚悟はしていたのだけどね。やっぱり、彼女の確約は欲しかったな」
 ついため息とともにボヤいてしまった。
 リナが確実にグルタニカに渡ってくれるというのなら、この命など惜しくはないのに……。
「仕方ないですよ。あの時は彼女自身の護衛もいましたし。触れれる話題でもなかったでしょう」
 キースが、慰めるように言ってくる。

「君たちも、すまないね」
 僕やキースはともかく。巻き添えになってしまった、後の2人に謝った。
「このメンバーで国外へ出されることを拒めなかった時点で、覚悟は出来ていましたよ」
「まぁ、姫に会えただけでも……」
 デリック・ブランジェは第二王子派だった文官、『姫に……』と言っているレオポルド・シャリエールは、元はリリアーナ姫派の人間である。
 まぁでも、一緒くたに入れられたおかげで、それなりに牢の中は和やかだ。

 ガシャンっと、金属の音がして、牢の扉が開いた。
 牢の中に、セドリックとサイラス、クリフォードが入ってきた。

「よくもまぁ、リナを利用してくれたな、キース。人には色々言っといて」
 セドリックが入って来ると同時にキースに言ってる。
 報告では、昨年の事をキースがセドリックに当て擦って、こちらに戻すように言ったという事だったから、それの意趣返しと言うところだろう。
「返す言葉も無いな。その通りだ、申しわけない。リナの容態はどうだ?」
 キースは、素直に相手のいう事を認め、気になっているリナの容態を訊いていた。

「無事だよ。すごいな、お前の血のり。本物かと思って焦ったぞ」
 サイラスは、普通に明るく返してくる。
 彼は、騎士団の団長だから、現場にいたのだろう。
「まぁ、動物のだけど、本物だからな。そのままじゃ、くさすぎてバレるから、一度精製して……」
 キースが、よくぞ聞いてくれましたとばかりに、話し出す。
 ああなったら、止まらないからサイラスには犠牲になってもらおう。

「何か言う事があって、牢まできたのでは無いのかな?」
 僕は、キースがしゃべっているのを横目に、クリフォードに話しかけた。
「犯人のマリユス・ニコラは、簡単な取り調べの後、処刑されることが決まった」
 クリフォードの方も、変な話題で盛り上がってしまっている2人を横目で見ながら、淡々と言う。
「処刑ありき、なのかい」
「現行犯だからね。犯人が我が国の人間でも、同じ処分になるから」
 なるほど。その辺はどこの国でも同じか。
 なら、僕たちのこの後の運命も推して知るべし、だな。

「後は、君たちだが、一応取り調べが」
「セドリック・クランベリー殿にお願いがあるのだが」
 僕は、クリフォードの話をさえぎって、大声で呼びかける。
 この報告が終われば、彼と話す機会が得られないまま、処刑されてしまう。
「叶えるかどうかは別にして、一応聞くが」
 態度は冷たいが、話を聞いてもらえるのは有難い。

「クランベリー殿。僕たちを処刑してしまってもかまわない。だけど、リナを……リリアーナ王女をグルタニカにやってくれ。彼女は僕に次ぐ王位継承権を持っている。充分、クーデターの旗印になるんだ」
 それを聞いていた、クリフォードとサイラスは唖然となる。
 セドリックは、ただ無言で聞いていた。

「僕たちが抜けても、まだ戦力になれる者は残っている。彼女なら、もっと少ない戦力でも、何とかするだろう。もともと、何も無いところから、彼女は始めている。だから……」
 セドリックは、僕の目の前でため息を吐いた。

「知っているさ、そんな事は。こちらの国でも、多分もっと何も無いところから、始めていたから」
 そう言って、セドリックはそのまま牢を出て行った。

「後日、取り調べがあるからその時は、従順に従ってくれ」
 クリフォードがそう言って、サイラスと共に牢を出た。

 我ながら、交渉が下手だなと思う。
 リリアーナが生きてあの国にいてくれたら、こんな事にはならなかったのに。
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