第1話 アンセルム王太子殿下とゲームの設定

文字数 1,747文字

「アンセルム殿下。お召しと伺い参上致しました」
 私こと、グルタニカ王国の第一王女リリアーナ・グルタニカはアンセルム殿下の執務室、扉の近くで礼を執っていた。
「リリアーナ、そんなにかしこまらなくとも良い。もう少し近くに……」
 この国、グルタニカ王国の王太子殿下アンセルム・グルタニカは、私を呼び寄せる。
 自身は椅子に座ったまま、冷めた目で私を見ていた。
 私は、言われるまま部屋の中央まで進み出て礼を執りなおした。

「そなたはいくつになった?」
「はい。今年で16になりました」
「キース・シャーウッドを知っているか? 国王の側近候補の」
「名前だけは、存じております」
「奴は今戦場にいるが、戻り次第式を挙げろ」
 式とは、婚礼の儀の事だよねなんて、訊き返せる雰囲気じゃない。
 私は、何だか信じられない思いでいた。

 政略結婚自体は、珍しくもなんともない。
 王族、貴族の子女で恋愛結婚と言う方が稀だろう。
 婚約のお披露目もせず、即婚礼だという事に驚いているのだ。

「キースには、こちらから言う。良いな」
「かしこまりました」
「では、下がっていい」
 私は、もう一度礼を執り優雅に退出していった。

 この国は、王太子であるアンセルム殿下が政務を執りだして随分経つ。
 国王陛下はアンセルム殿下の傀儡(かいらい)に成り下がっていた。
 時は、戦国時代。
 この世界は、乱れきっていた。
 グルタニカ王国は、この狂った時代の覇権を執るために戦っている。

 こんな時代の国王になるには、現国王は優しすぎたのだ。

 冷酷無比、目的のためには身内ですら手にかけることも、厭わない。
 それが現王太子アンセルム殿下。
 先程の縁談話も私がほんの少しでも、異を唱えていたらその場で首が飛んだであろう。
 王女は私だけでは無い。かわりはいくらでもいるのだから。

 婚礼相手は、王太子派のやはり同じく冷酷非道の指令官と噂されるキース・シャーウッド公爵。
 いや、噂だけではない、本当に戦場で敵方として出会ってしまったら、例え非戦闘員の子どもだとしても躊躇なく殺す。
 実際にそうしてきていると第二王子であるクライド兄様から聞いたことがある。

 護衛と共に自室に戻る。
 護衛はそのまま部屋の扉の前で、部屋の警備を続ける。
 部屋の中にいた侍女達が、私の召替えを始めた。
 
 ついついため息が出てしまう。
 それで……私は、なんでここにいるんだろう。
 確か、仕事が終って家でのんびりゲームをして、悠人の帰りを待っていたはず。
 そう、リリアーナ姫はゲームの登場人物で、悠人が好きなグランアシティブルという戦闘ゲームに付き合ってやっていただけのものである。
 
 リリアーナを操ってゲームをしていたのは、私こと、吉岡里奈。
 入社して4年ほどの会社で、研究職をしている。
 最近、少しずつ責任のある仕事を任されるようになったばかりだ。

 神部(かんべ)悠人は、同じ会社、同じ部署の大学時代からの恋人で、さっきアンセルム殿下の話に出て来たキース・シャーウッドを操っている。
 悠人が操っていたキースは優しかった。戦場では確かに敵には容赦が無かったが、所詮はゲーム。
 本当に誰かが死ぬわけではない。強制ログアウトするだけだ。
 ただ、キースが悠人とは限らない。今のは、あくまでゲーム内の話だから。

 ゲームとの差異も気になる点だ。
 ゲーム内のリリアーナ姫は20歳。キースと共に戦場に出て戦っていた。
 これは戦闘ゲームの性質上、戦わないと面白くない。だから非戦闘員はいない設定だった。
 
 キースとリリアーナ姫が夫婦だったなんて設定も私たちは作ってなかった。
 戦場に出てこない王太子や国王なんて名前も無かったくらい。
 クエストがあちらから来ていたから、多分運営だと思う。

 設定自体は、変わってないみたいだけど……冷酷無比の王太子殿下。
 だから、VRゲームだったこの中でも、王太子暗殺なんて計画を立てていた。
 だって、王太子から飛んでくる無茶ぶり命令(クエスト)に逆らったら、ログアウトさせられたり、ブロックされてゲームに参加出来なくされていたから。

 あれって、運営の方針だったのかな? 課金させるだけ、させて。

 キースに会ったら状況がわかるかしら。キースが悠人だったら……。
 それはそれとして、現実の私はどうなっているんだろうね……全く。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み