第24話 デュークとの下町デート

文字数 1,856文字

 デュークは、本当に小悪党伯爵の子息なのかって、いうくらい好青年だ。
 一緒にいると目的を忘れてしまう。
 私とエイリーンとの勉強会にも、自然と参加してきた。

「リナ様は、算術が得意なのね」
「本当に僕なんか情けなくなる」
「お二人には歴史系のレポートの助言を頂いてるんですもの。私も何か取り柄が無いと……」
 なんか、学生時代に戻ったみたいで楽しい。
 そういう流れで、自然と下町に行ってみないかという話になった。

「楽しそうですけど、私は遠慮致しますわ。どうか2人で楽しんでらしてね」
 と、当然ながら、エイリーンからは断られてしまった。当たり前か。
「ではリナ嬢。2人で行きましょうか。僕が責任持って寮まで送り届けますので……」
「そうですね。お願いします」
 デュークは、私の分まで外出許可を取ってくれた。


 次の休みの日。馬車で町におりる。
 下町と言っても、まだ貴族がウロウロしているような立派な町並みだった。
「まさか、女の子を連れて本当の下町まで行くわけには行かないからね。露店でも、見てまわる? それとも」
 この世界のリナも初めてだと思う。父も兄も連れて行ってくれなかったから。
 ついつい、目を輝かせて露店を見ていた。
「じゃぁ、行こうか。手をつないでも良い?」
 と言ってそっと私の手を握った。デュークの方を見ると。

「迷子にならないようにね」
 と、にっこり笑った。妹認定されたみたい。
 そうだよね、クラスメイトと言っても、女子は15才、男子は17才だものね。
 そっかそっかと思って
「ありがとうございます」
 って、素直に言ったら、デュークが少し赤くなった。照れたか。
 露店は食べ物から小物、装飾品もであって見てまわるのが、とても楽しかった。
「そろそろお昼だね。どこかお店に入る? それとも……」
 私は露店のホットドッグを見てた。
 この世界にもあったんだ、ホットドッグ。
 デュークが2人分のホットドッグと飲み物を買ってきてくれた。

「ごめんなさい。デューク様はお店の方が良かったでしょ?」
「いや。高級料理店じゃないと嫌だって言われるよりは、ずっとましだよ。予約も取ってないし」
「もしかしたら妹さんが?」
「まさか。妹2人も露店派だよ。あそこのホットドッグ、妹も好きなんだ」
 露店の端っこに、飲食スペースがあったのでそこに座った。

 食べようとして、ふっと気づいた。結構大きい。
 いや、頑張れば入るけど。男性の前で、大口開けて食べるってどうなんだ? 貴族以前の話じゃないのか?
「リナ嬢。どうしたの? 食べないの?」
「結構な大きさだなって……」
「大丈夫だよ。妹なんて、伯爵令嬢とは思えないくらい大口開けて食べるよ」
 平気平気って言ってくれた。意を決してかぶりつく。おいひい。
 顔に出てしまったらしく。

「ねっ。おいしいだろ?」
 って言ってくれた。
 さっきみたいに言ってくれなかったら、食べれなかった。
 露店に夢中になっている私は、デュークが手をつないでくれなかったら、迷子になったり、人にぶつかったりするところだった。
 本当に、この人は……。


 帰る間際、デュークは露店で扇子に付けるアクセサリーを買ってくれた。
「本当は、ちゃんとしたお店で買いたかったんだけど、装飾品を贈れるのは、親族か婚約者だけだからね。これくらいなら良いだろ? 今日の記念に」
 可愛い石の付いた前世で言うならストラップ。
 本当におもちゃみたいな物だから、これなら言い訳できる。

「今日は本当にありがとうございました。楽しかったです」
 前世の記憶を思い出してから、今日初めて心から笑えた。
 デュークは、少し痛いような笑顔で私を見た。
「こちらこそ。楽しかった、明後日の夜会のお迎えは自宅のお屋敷で良いのかな」
「はい。よろしくお願いします」
 女子寮から、少し離れたところでデュークと別れる。

 寮の道筋にある図書室で人影が見えた気がしたので、のぞいてみるとセドリックが中のテーブルに突っ伏して寝ていた。

 ずっと、付いてきてたものね。
 色々、陰で動いていて大変なのに、勝手に協力者にした私に文句も言わず……いや、少し言われたね……動いてくれている。
 サラッとした髪が風に揺れる。起きるかしら……と思いつつ、手で髪を触った。
 つい愛しくなって、髪に触れるだけのキスをした。

「大好きよ。セドリック」
 小さくつぶやいて、唇を離した。
 なんちゃってね……。私はきょろっと辺りを見渡して足早に図書室から出て行った。だから、気づかなかったのだ。残されたセドリックの顔が真っ赤に染まっていたことに。
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