第9話 フランシスの訓練の成果とリナの忠誠心

文字数 1,957文字

 ガッキーンと派手な音がして、フランシス殿下の剣が弧を舞い地面に刺さった。
 私は、まだ剣を構えていて、ハアハアと肩で息をしている。
 何日目だろう。
 最初の頃、起き上がる事も出来ないような状態だったものが、訓練が終わっても立って自宅屋敷に戻れるようになった。
 そして、10本に1本はこんな風に剣を奪う事が出来るようになっている。
 
「すごいな。もう勘を取り戻すのだもの」
 フランシス殿下が感心したように言う。
 もうって言うんだ。
 私が驚いていたものを、別の意味で取られたらしい。
「僕から10本から1本でも取れたらすごいって事」
 フランシス殿下はそう言った。
「ありがとうございます。フランシス殿下」
 素直にお礼を言う私に、笑ってくれている。
「ここの騎士が手加減しなくても勝てるようになっているから、とりあえずもう良いよね。本来の仕事に戻っても」

 そうだった。フランシス殿下は使節団の仕事をほったらかしにして私の訓練に付き合ってくれていたんだ。
 もう、昔じゃ無いのに。
「すみません。本当にありがとうございました」
 私は慌ててお礼を言いなおした。
 ペコンと頭を下げた向こうにサイラスがいたのだと思う。
 私越しに、そちらに向かって大声で言っていた。
「ちょっと、リナ・クランベリーを借りるよ」
 そして、サイラスが何か言う前に私を訓練場の端の所に連れて行かれた。

「さすがに2度目だと成果が出るのが早いよね」
 地べたの少し段になったところにフランシス殿下は座る。
 横へと促されて、私も座った。
「キースに聞きました? フランシス殿下」
「うん。でも、酷い訓練だと分かっているのに、またやるって言うとは思わなかったよ」
 苦笑いされながら、フランシス殿下に言われた。
 まぁ、ゲーム内の事だし。実際にボロボロになった訳では無い。
 だから、初めて剣を持った時、持ち方すら知らなかったわけだもの。
「フランシス殿下なら、ちゃんと鍛えて下さると信じてました。ありがとうございました」
「相変わらずだねぇ」
 フランシス殿下が優しく笑う。
 そして、ふと厳しい顔になって私を見る。

「リナ。今の君の忠誠心はどこにあるの?」
「まだ誓ってませんけど、次期国王陛下になると思いますが」
 リーン・ポートの制約上、この国ではそれ以外の選択肢はありえない。
「キースが外交に持って行こうとした話ね。事前にジークフリート殿に打診してみたんだ」
「はぁ」
 忠誠心の話は?

「王太子の側室候補になったことがあって、第二王子のアラン殿の夜伽をして、元々の君の所有権、王族にあるんだって? 何やってるの? 君は」
 ものすごく呆れられてる。だよね、話だけ聞いていたら、どこの〇ッチって話だよね。
「で、下賜されてデューク・リネハンの所有になっていて。リナが好きだと言うから、セドリック・クランベリー伯爵の奥さんになっているって。面倒くさいねぇ」
 ……本当にね。カオスだわ。だけど、セドリックには悪いけど……。
「そうですね。デューク様の所有なら、それでいいです」
「誰なの? そのデューク・リネハンって」
「私が処刑台にあげてしまった人ですよ」
 私は何でもない様に言った。
 だって、今のフランシス殿下は国交を開くための交渉国の人間だ。
 そんな人に、弱みを見せるほど、私もお人よしでは無いもの。

 フランシス殿下は、私をじっと見つめて、そしてため息を吐いた。
「最初の話に戻るけど、今世で誰にも誓っていないのなら。君の忠誠心はまだ僕のものだという事で、良いかな?」
 そう訊いてくるフランシス殿下に答えたのは、私では無く。
「良いわけ無いでしょう。フランシス殿下。リナ・クランベリーの忠誠心は騎士団に所属した時点で、我が国の国王陛下のものです」
 いつの間にかそばに来ていたサイラスだった。

「ああ。まぁ、そうだね。それはそうだ」
 さてっと……という感じで、フランシス殿下は立ち上がる。
「では僕は本来の公務に戻るね」
 と言い訓練場から出て行こうとしていた。
「ありがとうございました」
 その後ろ姿に、私はもう一度お礼を言った。
 フランシス殿下は、手を振ってくれたけど。

 なんで私の忠誠心の話をしたのだろう。
 私はもうグルタニカ王国の人間では無いのに。
 それとも国内で、違う国の人間になってしまった私にすら頼らないといけない事が起きているのだろうか。

 考えるとため息が出てしまう。
 だって、心当たりしか無いもの。
 だけど、余裕がない。
 今の私は、このイングラデシア王国の事を考えるので精一杯だ。
 所詮は、他国のことと切り捨てるしか無いのは辛いけど。

「色々、訊きたいことがあるが?」
 私の横にいたサイラスが言ってくる。
 セドリックに言った事を、後何度訊かれることになるのだろう。
 そう思うと、またため息が出てしまった。
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