第32話 リネハン伯爵邸の夜会の後 王宮 国王陛下の執務室にて

文字数 1,403文字

 リナは王宮に着くと、宰相の案内で奥の執務室に出向く。
「失礼致します」
「おお、来たか。このたびは大義であった」
 王様はにこやかに私を迎えてくれた。
 私は入り口で、スッと礼を執る。

「国王陛下を失望させてしまい。申し訳ありません」
「失望? そなたはちゃんと功績を残したではないか第二王子派の過激派とつながっていた伯爵を追い詰め、名簿や資料まで回収できて。何を失望することがあるのだ」
「私の功績ではありません」
「協力者をよく使いこなしてたし、エイリーンを無傷で救いだしたと聞いておるぞ。それ以上何がある?」

「王様の依頼を受けるにあたって、私が3つのお願いを出したことを覚えていらっしゃいますでしょうか」
「もちろんだとも、ほら、こうして公文書にもしておるからな」
 国王は、公文書の控えを引き出しから出して見せた。
 ちなみに本物はきちんとした文章に直され。双方の署名捺印の上、国庫に厳重保管されている。

 その3つの条件とは
 ・何かあっても家族や協力者に類が及ばないこと
 ・協力者の身の安全
 ・場合により事件や噂のもみ消し
 である。

「だからそなたの兄もセドリックも無罪放免だっただろう? まぁ、王太子の怒りは、完全に八つ当たりだったからのう。今、反省させておるところだ」
「デューク・リネハンも私の協力者です」
「そうだろうな。だが、デューク本人もそなたを眠らせ監禁しただろう? その上、監禁場所はエイリーンと同じ部屋だ。言い逃れは出来まい」
「ですが」
「これを許したら、第二、第三のリネハン伯爵が出てくる」
 ピシャと言われた。何も言えなかった。自分でも分かっていたからだ。

 確かに、これを助けてしまったら、他の過激派が何かしたときに罰せなくなる。
「とはいえ、デュークは側近候補まで上がった男です。私たちも、身分を剥奪し、どこかの子飼いとして生かす道を探ったのですよ。でも……」
 私が納得していないと思ったのだろう、宰相が口をはさんできた。
「本人が、拒みました。自分の代わりに妹たちを助けて欲しいと」
 はじかれたように、私は顔を上げる。

「このままでは、妹たちも犯罪者の直系として極刑に処されますから。さすがに優秀ですよ。親戚にずっと預けられていて、計画に無関係だと誰の目にもわかるように細工されてました。これでしたら、救うことも出来ます」
 妹が好きだと言っていた、デュークらしい。

「あれもこれもとは、いかんのう、リナよ。判断はそなたに任せる」
「国王陛下?」
「わしの結論は出てる。最初に報告がいったと思うがな」
 当事者夫妻と直系の子孫の斬首刑……一切の救済は無い。
「リナ。そなたは私の判断を唯一覆せる人間なのだからな」
 そう言って私の首元に収まっているネックレスを指さす。
 これを身につけれるというのは、そういう事なのか。

「リナ様。酷なようですが、デューク・リネハンに伝えにいってもらえますか? これは、私からのお願いなので、拒否権はありますが」
 このお願いが国王陛下なら強制で、宰相なら単なるお願い。
 そういうことか。だけど、私が行かないと、国王陛下が下した刑がそのまま執行されてしまう。
 拒否権など、無いのと同じではないか……。

「その役目、謹んでお受け致します」
 私は再度、礼を執り、宰相と2人で、国王の執務室を出た。
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