第48話 宰相の執務室
文字数 2,407文字
ホールデン侯爵家の夜会に行った夜。
私はアランに送って貰った後、寮で王宮の宰相宛ての手紙を書いていた。
このままでは、動きがとれない。
多分、セドリックも兄も私には、情報を渡さないだろう。
情報源は、自分で作らないといけない。
いい加減、この世界のことを解らないなんて甘え、通用しなくなる。
甘えている内に、また誰かが死んでしまうなんて事になったら、悔やんでも悔やみきれない。
朝、手紙を寮の先生にお願いしたら、放課後には返事が来ていて、手際よく外出許可まで取ってくれていた。
さすが、宰相様。
王宮に着くと、文官の人が宰相の執務室まで案内してくれる。
そうして、私は宰相の執務室に来ていた。
「何の用事でこちらに来られたのか、だいたい分かりますが……」
宰相の方から話を振ってきた。
「前世代の確執があるのなら教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ、お座り下さい。今、お茶を入れさせましょう」
お茶と共に『シャングリア』のパウンドケーキが出てきた、中にドライフルーツがたっぷり。
これって、連日即売り切れてるやつだよね。もう突っ込みどころ満載だよ……。
「おや、お好きだと聞いていたのですが」
「……大好きです」
何なのだろう? この謎の共通認識。
「ああ。確執というか、恨まれているでしょうからね、私たちは。あの中途半端な噂は、当時の私たちでは止めれませんでしたから」
「私たち?」
「ええ。クランベリー公爵、ポートフェン子爵と私です。そして、噂を流したのはアボット侯爵でした」
なるほど、それにホールデン侯爵を入れたのが前世代……クランベリー公爵は現役か……。
「アラン王子殿下からは、ホールデン侯爵に近付かない方が良いと言われました」
「そうでしょうね。身の安全を第一に考えるのであれば、絶対に近付いてはいけません、両家ともに」
「王太子殿下とアラン王子殿下は何かご存じなのでしょうか?」
「噂があったことは知っているでしょうね。それ以上は知らないはずです。まだ、お二方とも生まれる前のことですし。リーン・ポートに関わることは王太子殿下にも言えないことですから」
まずいな。誰にも相談できないとなると……。
「中途半端な噂って何ですか?」
「まぁ、ほとんど事実に近い噂なのですが、リーン・ポートの事がすっぽり抜けてるだけです。以前、王様が言ってたでしょう? あれに、近いですね」
なるほど……とリナは思う。
真実を隠すために目の前の宰相と父が、犯人をでっち上げたと言う事になる。
下手をすれば、第三王子の陰謀説も出てきてもおかしくない。
「だいたい、考えてることで正解だと思いますよ」
「……宰相様。人の心読めます?」
「読心術ですか? ある程度なら察することは出来ますよ、仕事柄」
至極まっとうな、ある意味つまんない答えが返ってきた。
まぁ、あれだ、母親がある程度子どもの考えを当てれるのと一緒だ。
相手の普段の言動から、推測するだけ。
それだけよく人を見てると言うこと。っていうか、どんだけこの人の元に、情報が入ってるんだろう。
「それで、先程の続きなのですが、その恨みは私にも向けられるのでしょうか」
「まず、クランベリー公爵は関係無いですね。すでに現国王に忠誠を誓って復帰しています。あの方は噂で人を判断しませんので。アボット侯爵は当時、宰相をしていましたから、真実を知っています。彼もある意味当事者ですから、自分も含めて恨みの対象でしょうね。高齢と言うこともありますが、王太子派のトップにいながら表舞台に出ないのはそういうことでしょう。味方に出来るかどうかは、リナ様にかかっていると思いますよ」
なるほど、アボット侯爵とはリーン・ポートの話が出来るんだ。
「ホールデン侯爵の方が、危険ですね。私たちと同世代で、まともにあの噂を信じて生きてきましたからね。今でも、私たち3人が当時の王太子殿下を裏切ったと思ってますから。貴女を第二王子派に引き込めなかったら、殺害も辞さないのは、ホールデン侯爵の方でしょう」
何と言っていいのか……う~ん。困ったね。殺しにかかられたら対抗できない。
「セドリック・クランベリーを護衛に付けましょう」
はい?
「セドリックは第2王子派では無いのですか?」
「派閥は関係無いですね。どちらにしろ、こちらからの命 なら動きますよ。彼は騎士団の団員ですから」
「え? だって……学園生ですよね」
「セドリックは騎士養成学園の方を先に卒業してるのですよ。王太子殿下が入る年に入学を合わせたかったのですが、今年20才ですからねぇ」
なるほど、成人してたのか……って、童顔なのか? てっきり十代だと思ってた。
「危なくても近付かないといけないのでしょう? リナ様は。セドリックなら、ずっと裏で動いてましたし役に立つと思いますよ」
「セドリック様は、前回も、私の勝手なお願いで命の危険に晒してるので、あまり頼みたく無いのですが」
私が言い淀みながら宰相に言うと、深い溜息を吐かれてしまった。
「では、この時よりあなたをここから帰すわけにはいかなくなりますが」
「どういう事ですか?」
「私の保護下に置くと言うことです。子どもは、素直に大人に守られていれば良い」
穏やかに宰相は言った。目の奥には冷たい光を宿してるが……。
決して親切心からでは無い。
邪魔だと言われた。己が立場も分からぬのかと、言わせてしまった。
「あの事件から、何も学べていませんね、私は」
嫌になるなぁ、自分が。エイリーンやジークフリートは、なんて言ってた?
「生まれたときから世界が違う」と「守られることを覚えろ」と、親切にもアドバイスをしてくれていたではないか。
セドリックもあちら側、私に覚悟が無いだけなんだ。
「宰相様。命令では無く。私からお願いしてみます」
珍しく宰相の表情が動いた。
「交渉決裂したら、宰相様に従います」
「では、ここに呼び出しましょう」
私はアランに送って貰った後、寮で王宮の宰相宛ての手紙を書いていた。
このままでは、動きがとれない。
多分、セドリックも兄も私には、情報を渡さないだろう。
情報源は、自分で作らないといけない。
いい加減、この世界のことを解らないなんて甘え、通用しなくなる。
甘えている内に、また誰かが死んでしまうなんて事になったら、悔やんでも悔やみきれない。
朝、手紙を寮の先生にお願いしたら、放課後には返事が来ていて、手際よく外出許可まで取ってくれていた。
さすが、宰相様。
王宮に着くと、文官の人が宰相の執務室まで案内してくれる。
そうして、私は宰相の執務室に来ていた。
「何の用事でこちらに来られたのか、だいたい分かりますが……」
宰相の方から話を振ってきた。
「前世代の確執があるのなら教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ、お座り下さい。今、お茶を入れさせましょう」
お茶と共に『シャングリア』のパウンドケーキが出てきた、中にドライフルーツがたっぷり。
これって、連日即売り切れてるやつだよね。もう突っ込みどころ満載だよ……。
「おや、お好きだと聞いていたのですが」
「……大好きです」
何なのだろう? この謎の共通認識。
「ああ。確執というか、恨まれているでしょうからね、私たちは。あの中途半端な噂は、当時の私たちでは止めれませんでしたから」
「私たち?」
「ええ。クランベリー公爵、ポートフェン子爵と私です。そして、噂を流したのはアボット侯爵でした」
なるほど、それにホールデン侯爵を入れたのが前世代……クランベリー公爵は現役か……。
「アラン王子殿下からは、ホールデン侯爵に近付かない方が良いと言われました」
「そうでしょうね。身の安全を第一に考えるのであれば、絶対に近付いてはいけません、両家ともに」
「王太子殿下とアラン王子殿下は何かご存じなのでしょうか?」
「噂があったことは知っているでしょうね。それ以上は知らないはずです。まだ、お二方とも生まれる前のことですし。リーン・ポートに関わることは王太子殿下にも言えないことですから」
まずいな。誰にも相談できないとなると……。
「中途半端な噂って何ですか?」
「まぁ、ほとんど事実に近い噂なのですが、リーン・ポートの事がすっぽり抜けてるだけです。以前、王様が言ってたでしょう? あれに、近いですね」
なるほど……とリナは思う。
真実を隠すために目の前の宰相と父が、犯人をでっち上げたと言う事になる。
下手をすれば、第三王子の陰謀説も出てきてもおかしくない。
「だいたい、考えてることで正解だと思いますよ」
「……宰相様。人の心読めます?」
「読心術ですか? ある程度なら察することは出来ますよ、仕事柄」
至極まっとうな、ある意味つまんない答えが返ってきた。
まぁ、あれだ、母親がある程度子どもの考えを当てれるのと一緒だ。
相手の普段の言動から、推測するだけ。
それだけよく人を見てると言うこと。っていうか、どんだけこの人の元に、情報が入ってるんだろう。
「それで、先程の続きなのですが、その恨みは私にも向けられるのでしょうか」
「まず、クランベリー公爵は関係無いですね。すでに現国王に忠誠を誓って復帰しています。あの方は噂で人を判断しませんので。アボット侯爵は当時、宰相をしていましたから、真実を知っています。彼もある意味当事者ですから、自分も含めて恨みの対象でしょうね。高齢と言うこともありますが、王太子派のトップにいながら表舞台に出ないのはそういうことでしょう。味方に出来るかどうかは、リナ様にかかっていると思いますよ」
なるほど、アボット侯爵とはリーン・ポートの話が出来るんだ。
「ホールデン侯爵の方が、危険ですね。私たちと同世代で、まともにあの噂を信じて生きてきましたからね。今でも、私たち3人が当時の王太子殿下を裏切ったと思ってますから。貴女を第二王子派に引き込めなかったら、殺害も辞さないのは、ホールデン侯爵の方でしょう」
何と言っていいのか……う~ん。困ったね。殺しにかかられたら対抗できない。
「セドリック・クランベリーを護衛に付けましょう」
はい?
「セドリックは第2王子派では無いのですか?」
「派閥は関係無いですね。どちらにしろ、こちらからの
「え? だって……学園生ですよね」
「セドリックは騎士養成学園の方を先に卒業してるのですよ。王太子殿下が入る年に入学を合わせたかったのですが、今年20才ですからねぇ」
なるほど、成人してたのか……って、童顔なのか? てっきり十代だと思ってた。
「危なくても近付かないといけないのでしょう? リナ様は。セドリックなら、ずっと裏で動いてましたし役に立つと思いますよ」
「セドリック様は、前回も、私の勝手なお願いで命の危険に晒してるので、あまり頼みたく無いのですが」
私が言い淀みながら宰相に言うと、深い溜息を吐かれてしまった。
「では、この時よりあなたをここから帰すわけにはいかなくなりますが」
「どういう事ですか?」
「私の保護下に置くと言うことです。子どもは、素直に大人に守られていれば良い」
穏やかに宰相は言った。目の奥には冷たい光を宿してるが……。
決して親切心からでは無い。
邪魔だと言われた。己が立場も分からぬのかと、言わせてしまった。
「あの事件から、何も学べていませんね、私は」
嫌になるなぁ、自分が。エイリーンやジークフリートは、なんて言ってた?
「生まれたときから世界が違う」と「守られることを覚えろ」と、親切にもアドバイスをしてくれていたではないか。
セドリックもあちら側、私に覚悟が無いだけなんだ。
「宰相様。命令では無く。私からお願いしてみます」
珍しく宰相の表情が動いた。
「交渉決裂したら、宰相様に従います」
「では、ここに呼び出しましょう」