第82話 近衛騎士見習いリナ 宰相様の執務室 隊長の誤解は解かない方向で

文字数 1,733文字

 私は、ジークフリートとアランの前で……正確には、アランの腕の中で、子どもみたいに声をあげて泣いた。
 そんな私をなだめるためにか、2人はもう二度と自ら死ぬことは考えないと誓ってくれた。
 最後まで、生きることを諦めないと……。

「でもね。それはリナも……だよ」
「そうそう。リナ嬢も約束してくれないと……」
「大丈夫。最初から死ぬ気なんかないから」
 泣きながら、変な笑顔になってる。
 それでも、失敗したときの保険はかけるけどね。

 そう、アランの部屋でこんな遣り取りをして出てきたから、忘れてたんだ。
 アランからどうやって私室に連れて行かれたのか……を。
 だから、ハンカチで涙を拭いただけの顔で出てきてしまっていた。

 アランの私室から少し離れた廊下のところに、オールストン隊長と宰相が立ってる。
 オールストン隊長が痛ましげに私を見てるけど。宰相は……うん、普通かな?
 って言うか、なんでいるの?
「オールストン隊長。とりあえず、こちらで引き取って良いでしょうか?」
「申し訳ない。ポートフェン殿……その、明日からの勤務は」
「え……と、朝からですよね」
 泣きすぎて、声か掠れているや。でも、近衛の現場も知りたいし。

「いや、休んでもかまわないが……」
 休んでたら、学園の新学期始まっちゃう。
 訓練はまだしも、近衛の仕事は学園と両立できないのに。
「大丈夫です、行きます」
 泣いてブチ腫れた目は、明日までに何とかしますね。



 とりあえず宰相にうながされて執務室に入った。
 セドリックいるし。
「それで、俺はアランと決闘でもすれば良いのかな?」
 半分笑い交じりに言ってる。

「ジークフリート様もいました。分かってて何言ってるのかなぁ~って、感じなんですけど」
「何、泣かされてきてるんだよ」
「だって……アラン様が簡単に自分の(いのち)使って良いなんて言うから……。こっちは、2人とも助けたくて頑張ってるのに……」

「泣いた理由は、分かりましたが……リナ様、アラン王子にどうやって連れて行かれたか覚えてますか?」
「どうって……あっ」
「どっかで誤解を解かないと、オールストンが罪悪感でどうにかなりますよ」
「普通にいい人ですものね。でも、誤解を解くのは無理……かも」
 だって、ジークフリートがいたと言わないと誤解は解けない。アラン側の過激派に言うのは無理だ。

「まぁ、賢明だな。ほったらかしで良いよ。大人なんだし、何かあったら敵になるんだし」
「セドリック。アラン様と繋ぎとれないの?」
「今は無理かな。元々、アランの周りは過激派ばかりだ。学園内ならまだしも、王宮じゃ、ろくに話も出来ない。まぁ、リナはしばらくアランの私室に出入り出来るんじゃない?」
「なんで?」

「オールストンの罪悪感の意味分かってる? リナちゃんが泣きはらした顔で出てきた所為で、無理矢理お相手させられたって思われてるぜ」
「あ~それで、ですか」
「俺は面白くないけど……」
 セドリックの胸のところにコトンと頭を押しつける。
「リナ様。ここ、私の執務室なんですけどね。そういうのは、私室でして下さい」
「イヤです。ここが一番安全なんで……。それで、私しばらく連絡役したら良いんですね」
「う~ん。どっちでもいいや。もうすぐ新学期だし」
 セドリックは、自分から言ってきたくせに私の連絡役を渋った。
「後、今回の件は、親父から正式な抗議と抗議文でるから」
「なんで?」
()()()って主張しとかないと、取られるからね。サイラス・ホールデンに」
「取られるって、何を?」
「リナちゃんだよ」
 へ? 私を?

「争奪戦になると言ったのを覚えてませんか? 立場を明確にしないと揉みくちゃにされると」
 宰相が割り込んできた。そういえば、宰相と父がそんな話してたっけ。
 覚えてないよ、そんな遙か昔の話(※)。1年前だけど。
「弟のレイモンド・ホールデンの婚約者は、アランの妹、フイリッシアだよ。つまり、リナちゃんが護衛してるときにも遊びに行く口実があるんだ」
 私は、キュッとセドリックにしがみついた。



※13話参照
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