第23話 王子殿下たちがもってきた交渉事

文字数 2,131文字

「見てもらうのが一番だと思ったのですよ。でないと傷一つ無いですよ、って言っても、口では何とでも言えるって思うでしょ?」
 私は、真っ赤になっているアラン殿下にそう説明をした。
 そう言われてアラン殿下は、私のお腹を確認する。
 いや、ね。意識されるとこっちも恥ずかしいから。

「少し。真面目な話と交渉がしたいのだけど。良いかな? リナ」
 パジャマを降ろして、お腹をしまった後、ジークフリート殿下が真剣な顔で私に言ってきた。
「ええ。私も真面目なお話がしたいです」
 本当にね。
 私はにこやかに応じた。アラン殿下も、椅子に座り直す。

「まずは、報告。今回の事件の犯人であるマリユス・ニコラは、取り調べ後に処刑が決まった」
「はい」
「それから、他の使節団のメンバーは取り調べ後、無罪放免、帰国の途に就く事になる。……と言うのがリナの出した命令書(シナリオ)なのだけど。今、使節団全員の暗殺命令が出ている」
 なんですって? 
 私は思わずジークフリート殿下の顔を見た。

「どなたが出した命令ですか?」
 自分の声が低くなっている。
「私たちだよ。私とアランで出した」
「使節団の暗殺がどういう意味を持つのか……」
 もう、だからジークフリート殿下には納得してもらうよう、国王陛下と共に話を聞いてもらっていたのに。
 なんでわかってくれない。
「使節団の連中は君を利用した。君の命を危険にさらして。それで充分だと思うけど」
 何が? どうして、そんな考えに……。
 ジークフリート殿下の手が不意に伸びてきて、私の頬を撫でている。

「グルタニカ王国以前の話で、我が国で君だけだろう? どの程度なら戦争に打ち勝てるのか、推し量れるのは」
 それは買いかぶりなのでは?
 ジークフリート殿下は私を真剣な目で見て言う。
「君が外交的面での慎重論を唱え、地道に軍部の改革をしているから。外交で相手国に譲歩するし、改革も進んでいる。今、この国から君がいなくなったら」
 ああ。なるほどね。ジークフリート殿下も、キースと同じだ。

「別に、私がいなくなっても大丈夫ですよ。もう路線は敷いています。アボット侯爵は優秀ですよ。彼のおかげで、友好国も増えてきました。軍部も、20年も経たずに、他国の軍とそん色なく戦えるようになりましょう。その頃には、グルタニカ王国にも、単体では無理でも、友好国の援軍があれば勝てるようになっているでしょう」
 そこまで言って、気持ちを切り替える。
 ここから先はちゃんと理解してもらわなければ、いけない。

「リナ?」
「ただ、今は無理です。今攻められたら、蹂躙されるだけされて、この国は終わります。ジークフリート殿下。あなたは、国王になられるのでしょう? こんな些末的な事にかまけてないで、もっと大局をごらんくださいませ」
 私1人がいなくなるだけで、国が傾くような体制になってもらっては困る。
 自分の代で、戦争が始まるかもしれない不安があるなら尚更、強くなってもらわなければ。

 なんだか、2人とも驚いた顔をしているわ。
 こんな風に今まで話した事なんて無かったから。

「リナ。交渉の方に移って良いかな」
「はい。アラン殿下。何の交渉でしょう?」
「使節団の暗殺命令を取り消す条件なんだけど」
「はい」
「この先、グルタニカ王国がどういう風になっていっても、リナはグルタニカ王国には行かないという確約が欲しい」
「確約……ですか」
 誓約書でも書く……とか?
 でも、とにかく信じてもらうしかない気もするけど。

「実はね。アボット侯爵がもう一冊、リーン・ポートの本を隠していてさ。僕らに教えてくれたんだ。だけど、王位に就いた後の書き換えと同じで、お互いが望まないと出来ないのだけれど」
 アラン殿下がベッドに上がってくる。
 ちょっと、アラン殿下? さっきの初心(うぶ)さは、どこに行ったの?

「ア……アラン殿下?」
「どうする? 交渉に応じてくれる? 使節団の人たちの命と引き替えに。リナは、この国……というか、僕のいる国から離れられなくなるけど」
「でも、ジークフリート殿下が国王に……」
「それは、大丈夫。王位継承と関係無く出来る一生に一度の能力(ちから)だから。それに、この能力(ちから)使うと王位に就いた後の書き換えも出来なくなるから、一石二鳥?」

 一石二鳥の前に、私、押し倒されそうになっているんですけど。
 アラン殿下?
 思わず私はジークフリート殿下の方を見た。
「とりあえず、リナの返事を待ってあげなよ」
 ジークフリート殿下は、一応アラン殿下に忠告してくれた。
 助かった気がしないけど……って、助ける気無いのか。

「分かりました。交渉に応じます。ただし、使節団が無事帰国した後。セドリックの前でと言う条件なら、です」
 これなら気が変わって使節団が暗殺されることも無いし、セドリックの前で出来ないような行為はしないだろう。
「私たちを信用してくれないのかな? リナ」
 心外だというように、ジークフリート殿下は言うけど。
「その前に、私の事を信用してませんよね。お互い様です」
「仕方が無いなぁ。良いよ、それで」
 アラン殿下がそう言いながら、私のベッドから降りて行った。

「ジークフリート殿下、アラン殿下。交渉とは別に、私のお願い聞いて貰えませんか?」
 私は2人に対して、笑顔でそう言った。
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