第100話 危ないからホールデン侯爵邸にお詫びに来るな

文字数 1,180文字

「よう、リナ嬢。アボット侯に呼び出しくらったんだって? 奥様方や令嬢方の相手も大変だな」
 久しぶりに、訓練に参加した後、指揮官としての仕事を習いに団長の執務室に行ったら、開口一番こう言われた。

「団長。ホールデン侯爵様には、お詫びに行ってもらってしまって。すみませんでした」
「いや、別に当然のことだろ? 自分が推薦してるんだから」
 うん。宰相からもそう言われたよ。
「あの……それでお礼と迷惑かけたお詫びに伺いたいのですが」
 私の申し出に、サイラスが微妙な顔をした。
「今、親父は最近までのアボット侯と同じで、王宮の仕事には関わってないんだよ。だから、王宮に執務室が無いんだ」
「はい。そう伺ってます」
「俺から、リナ嬢がお礼言ってたって言っとくよ」
「え? でも……」
「あのさぁ。いくらセドリックの婚約者って言っても、宰相ともつるんでるだろ? 家まで来るのは危ないからな」
 サイラスが、あきれてものが言えないという感じて私に忠告してきた。
「サイラス様がいてもですか?」
 ビックリした顔でサイラスが見てる。何か変なこと言った?

「それは、俺に取り込まれても良いって事か?」
 低い声でサイラスが言う。
 へ? なんで、そうなる?
「その顔は、全く分かってないな。なんか、セドリックに同情したくなってきたぞ。ちょっと、来い」
 最初、腕をつかまれて連れて行かれてたけど、私の歩調に合わせるのに焦れたのか小脇に抱えられている。
 私、荷物じゃないんですが。なんか、ズボンはいてると、私の扱いがドンドン雑になっていく気がする。

「セドリック、いるか?」
 ノックもせず、バタンと執務室の扉を開ける。
 机で書類を書いてたセドリックが、怪訝そうな顔をして立ち上がった。
 いや、だって自分の婚約者が他の男の小脇に抱えられてるんだからね。
「何をやってるんだよ? サイラス」
 セドリックの声が低くなってる。
「それは、こっちのセリフだ。こいつにどんな教育してるんだ、お前」
 スルッと降ろしながら、セドリックに怒ってる。
「はぁ?」
 あっ、ほら。セドリックも意味が分からないって顔してる。
「今、こいつ、俺と連れだってホールデン侯爵家に行きたいって言ってきたぞ。それとも、お前の差し金か?」
 セドリックが信じられないって顔で私を見た。
「あの……」
 説明してくれないとわかんないよ。
「んなわけ無いだろう」
 ふぅ~と、溜息をつく。そして、セドリックは態度を改め。

「とにかく、こちらに連れてきて頂いてありがとうございます。騎士団長殿」
「今回限りだ。二度目は無いからな」
「意味が分からないのですが」
 とりあえず、近くのサイラスに聞く。
「近衛騎士副団長殿に聞いてくれ。じゃ、な」
 
 いや、こんな怖いところに置いていかないで……。
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