第20話 リナ・クランベリー 殺人未遂事件

文字数 1,397文字

 外交の場に呼ばれ、グルタニカ国の使節団との交渉の結果、私を連れ帰るという話が正式に無くなった。
 それ以降は、私が外交の場に出されることもなかった。
 私は私で、軍事改革の真っ最中なので、関わっている余裕も無いのだけれども。

 私の身分と立場は、もう使節団の皆様にもバレてしまっているので、通常業務に戻った。
 つまり、私の司令官執務室での仕事も再開している。
 それでも、国家機密とかでない書類なんかは、サイラスの大部屋執務室でしているのだけれども。
 本当にいつも通りの日常が戻って来ていた。

 この日も私は剣の指導役をしてくれているフィルと、訓練場に向かっていた。
 2人で廊下を歩いていたら、誰かから呼び止められる。
「リナ・クランベリー司令官?」
 ここで私をそんな呼び方をする人間はいない。
 警戒しつつ、私は振り返った。
 その瞬間、刺されたのが分る。騎士団の制服が、生暖かく濡れていっている。
 下を向くと、短刀とそれを握る男性の手が見えた。

 殺気も何も感じない。相手の顔は、にこやかに笑っていた。
 思っていた通り、マリユス・ニコラが立っていたのだけど。
「マリユス・ニコラ?」
 そう言った瞬間、私の耳元で彼が何かつぶやく。
 そして、私はその場に倒れてしまった。

「貴様!」
 一緒にいたフィルがマリユス・ニコラを殴った。
 異変を感じたのだろう、その辺にいた騎士たちがわらわらと集まってくる。
 マリユス・ニコラは、集まってきた騎士たちによって、あっという間に捕縛されてしまった。

 廊下には血だまりが出来ている。
 私は体を丸めお腹を押さえて転がっていた。
「リナ嬢! リナ!」
 フィルが、私の名前を叫んでいるのが聞こえてる。少しうるさいかな?
 どうして良いのかわからず、オロオロしているようだった。
 その内に、私の体に大量のタオルが落ちてくる。

「とりあえず、それで押さえて止血しろ。今、医者を呼びにやらせている」
 サイラスの声がする。駆けつけて来てくれたんだ。
「そいつは牢に入れておけ」
 これで指示はサイラスに任せておける。

「グルタニカ使節団の奴ら一人残らず捕まえろ」
 遅れて現場にやってきた、セドリックが追加で指示を出していた。
 セドリックの命令に、騎士たちが一斉に動き出し、行ってしまった。

 ちょっ、ま。
 私は、かなり焦っていた。
 事情知っているよね。セドリック。
 一緒に、国王陛下に陳情に行ったよね。

「セド……」
 私はお腹を押さえているのと反対の手を、セドリックに伸ばす。
 セドリックは、私の様子に気付いてくれて、タオルごとお腹を押さえてくれていたフィルと代わった。
 セドリックの近衛騎士団の制服も血まみれになってしまっている。
「黙ってろ。傷に障る」
 私の意識がある事に、ホッとした顔をしていたが、その顔が次第に怪訝そうなものに変わる。
 私の手は暖かく、顔色も普通のハズだから。
 気付いたかな?
 
 ちょいちょいと、セドリックを呼んだ。
「リナ?」
「これ、血のり。私はケガなんかしてないから」
 私はしっかりした声で言った。
 セドリックの体から、力が抜ける。
 長い息を吐いていた。
「よかった」
 心底、安心したという感じで言う。
 
 立ち上がって、慌ててやって来ていた医者とサイラスに何かをぼそぼそと告げていた。
 私は、医務室に連れて行かれて、そのままある程度体をキレイにしてもらって、クランベリー邸に戻って行った。
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