第80話 近衛騎士見習いリナ アランの私室

文字数 1,318文字

「君、本当に面白いよね。とりあえず僕の部屋に行こうか。確かめたいこともあるし」
 気が付いたらアランがすぐそばまで来てた。
 アランの声に変な甘さが入ってるけど。
 情報入ってないんだね、セドリックいなくなって。
 でも、そういう誘い方って、変な風に取られるんじゃ……。

「命令だよ」
 アランの手が私の唇に触れる。わざとそう取られるようにしてるのか、なるほど。
 それじゃぁ。
 少しおびえを含んだ目でオールストン隊長を見る。
「アラン王子殿下。私の部下です。それ以上は」
「なに? 逆らうの?」
 やばい。命令に逆らってでも、私を庇ってくれる気だ。
 てっきり、差し出されると思ったのに。

「隊長。私は大丈夫です。アラン王子殿下、命令に従います」
 仕方ない、自らドナドナされる仔牛になるよ。
「そう。それじゃぁ、オールストン。この子連れて行くね。僕の護衛も置いていくから後の指示よろしく」

「殿下。護衛は」
「ここに連れてきたって事は、この子も護衛できるんだろ? 今日の僕の護衛はこの子で充分。じゃぁね」
 アランから手をつながれて、私は強制退出させられた。

「いい人ですね、オールストン隊長」
「あれでも、過激派だから。気を許さないで。ここが僕の私室だよ」
 シンプルだけど、質の良いお部屋。侍女を含め人払いは済ませてるみたい。
 ジークフリートが座ってお茶してるもん。

「久しぶりだね。リナ嬢」
「お久しぶりです。ジークフリート様」
「今日はまたずいぶんと可愛らしい格好になってるね。何やってるのかな? 君は」
 ジークフリートは、私の方にやってきて両手で私の手を包み手のひらを見る。

「剣、使えるようになったんだね」
「あ……いえ。まだまだです。今、訓練中断してますし」
「ーで、なんで騎士団の新人やってるんだよ。養成学校も出てないのに。ものすごい特例だよね。しかも近衛なんて、順調にいっても後10年はなれないだろ?」
「あ……と、アラン様。その質問に答える前に、ジークフリート様に謝りたいです」
「なに? 心当たりは無いけど」
「ジークフリート様が用意して下さった、逃げ道。使えなくなりました」
「どうして? どこかに取り込まれそうになってるのなら」
 ジークフリートが、焦りを隠さず私に言ってくる。

「私の今の肩書きは、『司令官見習い』です。正式に辞令が出てます」
「「は?」」
「内部事情を知りたくて、各部署の新人やってるって感じです。まさか、幹部候補の肩書きがある人間を側室には出来無いでしょ?」
「クランベリー公か。やられたな」
「ああ。まさか、こうくるとは……」
 お~い。王子様たち、話聞いてくれ。

「交渉の結果なんで……、こっちにも収穫はあるんです」
「どんな? っていうか、すごいな。交渉したんだ」
「私が動くときに、近衛を含めた騎士団と、主立った貴族の抑え込みとの交換条件なんで」
「あんまり、聞きたくないけど。聞いて良いかな?」
 ジークフリートが恐る恐る訊いてくる。

「何のために?」
「え? ホールデン侯爵家にケンカ売るため?」
 2人とも、聞きたくなかったとばかりに、頭抱えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み