事故現場

文字数 455文字

 献花された道路標識のしたに、少年がひとり立っている。
 少年は恨めしそうな表情で私をじっと見つめると、「絶対にゆるさない……」そうひとことつぶやいて、右足を引きずりながら夕暮れのなかに消えていった。
 ……ああ、本当に申し訳ないことをした。
 なぜあのとき、私はもっと早くブレーキをかけられなかったのだろう。
 不意な子供の飛び出しに注意して、あれだけバイクのスピードを抑えていたのに。
 路肩についたオイルと血の染みを見下ろしながら後悔に苛まれていると、私の妻が涙を浮かべながら標識のまえにあたらしい花束をそなえた。
「……よかったわね、あなた。バイクの前に飛び出したあの男の子、足をくじいただけですんだみたい。怪我もじきに完治するって、お医者様が。なのにあなたは――」
 だとしても、少年が私をゆるすことはけっしてないのだろう。
 そして私はいつまでも、この標識のしたに縛りつけられるのだ……。
#ホラーポエム




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