聖地巡礼

文字数 571文字

「ちゃんと見つけてね、待ってるから」
 まどろんだ夢のなかで、少女は私を見つめながら言う。
 どこかで会ったような、うまれてはじめて出会ったような、奇妙な感覚をおぼえさせる不思議で愛らしい少女だ。
「ずっと待ってるから、今度こそちゃんと……」
「わかった、いつかきっと」
 くり返しうったえてくる夢のなかの少女と、私は約束を交わす。
 そんなある日、断捨離中のクローゼットの奥から、ふるい新聞の切り抜きを見つけて忘れかけた記憶がよみがえった。
 それはまだ少年だった私の、つたない初恋の思い出。たった一度、新聞で見かけただけの名も知らぬ少女に心を奪われた、どうしようもなく切ないあのころの記憶が。
「……そうか、きみはあのときの」
 やっと大切なことを思い出した私は、彼女の姿をもとめて森のなかを彷徨う。
 まるで幼かった、あの夏の日の午後のように――。
 幾度も迷いながらたどりついた聖地では、少女が私を待っていてくれた。あの日、この付近で誘拐され消息を絶ったという、愛くるしいむかしの姿のままで。
「ごめんね、ずいぶん待たせちゃったね」
「ううん、ありがとう、やっとわたしを見つけてくれて」
 そして私は、深い深い土の底で少女に抱かれながらまどろむ。ときを経てようやく成就した、あまい初恋の夢を見つづけたまま……。
#ホラーポエム #リクエスト



 お題提供、砂乃路傍さま

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