線路

文字数 410文字

 山の奥へとつづく線路は、雪のなかに向かってゆく。
 子供のころに兄さんと歩いた、いまはもう使われることのない錆びた線路だ。
「……今日は、カブトムシでもつかまえに行くかい?」
 ふいに声がして足もとをみると、どろどろに溶けた右手がぼくの足をつかんでいた。
 ああ、きっとこの先で兄さんは待っているのだな――。
 そう確信して、ぼくはピッケルをにぎりなおす。
 大丈夫、今度こそしくじらないよ。あのときは何度も痛い思いをさせたけど、ぼくはもう非力な子供ではなく立派な大人だ。
 だから兄さん、とっととくたばっておくれ。
 そう叫んでピッケルをちからいっぱいふりおろすと、ぐしゅっと腐った右手がくずれ、ピックの切っ先がぼくの脛をつらぬいた。
 錆びた線路のうえに、ぼくの悲鳴と兄さんの笑い声だけがこだましていた。
#ホラーポエム




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