水かがみ

文字数 545文字

「その滝つぼをのぞき込むと、自分の死に様が見えるといいましてなぁ」
 そう言って合掌すると、和尚は南無南無うんぬんと念仏を唱える。
 でも、それはただの言い伝えでしょ、とわたしがわらうと、さて、どうですかな? とわらい返し、和尚はふたたびわたしに背を向けた。
「なんでもその昔、無法者に追われた村娘がこの滝まで逃げてきたそうでしてな。可哀想にとうとうここで襲われて、手籠めにされたあげく殺されたそうで――」
 きっと、その呪いなのでしょうなぁと、和尚のしわがれ声がひびく。
 わたしは和尚が藪をあさるガサガサという音を背中で聞きながら、そっと澄んだ水をたたえた滝つぼのなかをのぞき込んでみた。
「……へぇ、こんなきれいな場所で、そんな惨いことが」
 すると滝つぼの水かがみには、わたしの背後で大きな石を振り上げる和尚の姿が映り込んでいた。つづいてガツン、と後頭部を打つ強い衝撃とともに、わたしはなすすべもなく滝つぼに突っ伏して動けなくなる。
 そして息を荒げた和尚は、衣服を剥がれたわたしの上にのしかかって腰を振った。
 ――どうやら村娘の怨念は、いまだに生きつづけているようだ。
#ホラーポエム




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