群馬の話 5

文字数 773文字

 とはいえ、部屋を飛び出しても行くあてがないおれは、とりあえず人気(ひとけ)をもとめて駅の周辺をさまよった。
 今はどうかわからないけど、当時の群馬はまだタケヤリデッパのヤンキー全盛で、駅前なんかまさに溜まり場で深夜でも人があふれていたからだ。まあ、それはそれで別の意味で危なかったけど、そのときのおれにしてみればぶん殴ればどうにかなる人間よりも、得体のしれない幽霊のほうがよっぽど怖い存在だった。
 とにかく、今の状況でひとりきりになるのはごめんだった。
 もし、さっきの変なのまでおれについてきていたら……。
 そう考え始めるとやたら不安になって、自分のうしろをうらめしそうな顔をした女がトボトボついてくる錯覚にとらわれ、やみくもに人をもとめて一晩中歩きまわった。
 そんなこんなで空が白むまで駅まわりを徘徊しつづけたおれは、ようやく朝って呼んでもいいくらいに日が昇るまで待って、びくびしながら一度部屋にもどってみることにする。
 最初に言ったみたいに、ほかに行くあてはないからね。結局。
 で、異常なくらいあたりを気にしながら、日当たりの悪い階段を上って二階へ。
 ビルの谷間だから朝でもうす暗い廊下を真ん中くらいまで進むと、昨日まで光り輝いて見えていたおれだけの城が待ちかまえている。
 今はもう、ぶっちゃけ恐怖の対象だ。たった一晩すごしただけなのに。
 そんなことを考えながら、ゆっくりとドアノブに手をかける。
 取るものもとりあえず寝巻きのジャージのまま飛び出したから、当然ドアの鍵なんかかけてあるわけがない。
 そっとノブをまわしてみると、キィっと小さな軋みをたててドアが開いた。
 ――群馬の話6へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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