群馬の話 7

文字数 927文字

 で、ここをいちいち語るとムダに長くなるので一気にはしょると、念入りに鋲で打ち込まれたカーペット苦労してひっぺがしてみると、大方の予想通りそこにはなにもなかった。
 ただちょっとかび臭い畳が、カーペットの下から顔を出しただけだ。
 とはいえ、当然それで納得のいかなかったおれは、家探しでいい時間になっていたこともあって、とりあえずその足で不動産屋にどなりこみに行くことにした。
「あの部屋、急遽空きが出たって言ってたけど、どーゆーわけがあるんすか!」
 ってね。
 すると不動産屋の返答は簡潔明瞭。
「そういうお問い合わせには、当方ではお答えしかねます。どうしても気になるなら、オーナーさんに直接お問い合わせいただけますと……」
 まあ、今どきみたいに客側が病的に甘やかされてなかった時代の話だ。
 タチの悪いクレーマー対策としては、じつにまっとうな対処だったと今なら思う。
 そんなこんなでたらいまわしにされたおれは、聞いてみると意外と近所に住んでた大家さんのもとを訪ねてみることする。
 会ってみると大家さんはムチャクチャ人のよさそうな爺さんで、おれの要領をえない話を一通り聞いてから「ああ、やっぱり……」みたいな顔でうなずくと、
「そうですか、私どもにはまったくそういう覚えはないんですが、どうしてもお嫌なら契約は破棄してもらってかまいません。敷金も礼金も、全額お返しします……」
 と本当に申し訳なさそうにふかぶかと(こうべ)をたれた。クソ生意気で礼儀すらわきまえていない、今でいうモンクレだった当時のおれに対して。
 ……でもそうなると、今度はこっちがものすごく理不尽な要求を突きつけてる悪者な気分になってくる。
 結局どうしようもなくなったおれは、それでもお化けが怖くて部屋にはいられないもんだから、一旦ひきさがって手荷物だけまとめてから、実家に避難すること決めた。
 そこからまたちょっと、おかしな方向に話はこじれてゆくことになるんだが……。
 ここまでが、入学式三日前の三月末のお話。
 ――群馬の話8へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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