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文字数 633文字

「――358秒です」
 週末、憂鬱な一週間を終えてうきうきと帰路についていると、ふいに鞄のなかでそんな無機質な声がした。
 ドキリとして確認すると、スマホの音声アプリが勝手に起動している。
「おいおい、脅かさないでくれよ」
 このところの激務で、ひさびさの休日前のせいだろうか? 私はちょっと浮かれた軽口で、スマホに声をかけてみる。とはいえ、せっかくのテンションに、こんなことで水を差されては堪らない。仕方なく足を止めて周囲を確認すると、歩道のわきにおあつらえ向きの道路標識が見つかった。
 あそこなら、立ち止まっていても通行の邪魔になることはないだろう。と、
 ――ポン。
「――214秒です」
 まるでそれを見計らったように、ふたたびアプリが起動する。
 さすがにイラっとしてスマホを振ったり叩いたりしてみるが、今度は画面のクローズさえ受け付けない。
 私は眉をひそめながら、電源ボタンを何度も手荒く押し込んでみる。
「……ったく、本当に壊れたわけじゃないだろうな?」
 するとそんな私を小馬鹿にしたように、スマホがカウントダウンの終了を告げてきた。
 と同時に頭上の道路標識が、ギシッと軋んだ音を立てて落下する。
 ――ポン。
「――0秒です」
 脳天にその鉄板の塊をくらった私の意識は、急速に遠のいてゆく。そしてこの週末は、私にとって特別な意味を持つものになった。




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