ほねぶと

文字数 485文字

 負け犬にかける言葉はないと昔から言うけれど、どうやらいまどきは有頂天になって、後ろ足で死体を蹴りまわすものらしい。
 それこそオーバーキルだと、ぼくなんかは思うのだけど、
「可哀想な負け犬の皆さんへ――」
 と、お手紙に書いてあったから間違いないだろう。
 参列者に「客のお前が馬鹿なんだ」と大上段から噛みつかれれば、まあ、それも致し方ないかと尻尾が垂れかかったところで、首輪で吊り上げられたおじさんが、白目を剥いたまま高架線の彼方からこう言った。
「……それで虚勢されるなら、お前は本物の負け犬として保健所送りになるんだぜ?」
 なるほど、それも確かにごもっとも。
 血ヘドを吐きながら戦い抜いたおじさんの屍を見上げながら、ぼくの尻尾はまたピン、と天頂を向いた。
 ここでくたばっては、おじさんが浮かばれない。……ガリリッと極太の骨を噛み砕きながら、ぼくはおじさんの亡骸に勝利をちかうのだった。
 ▼@月◇※日 人面犬の日記より三度(みたび)抜粋。
#ホラーポエム #餞別




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