群馬の話 23

文字数 783文字

 H先輩が言うには、おれのアパートはちょうど病院と寺(墓場)にはさまれた霊道になっていて、たまに通りがかった霊が気に入って勝手に入居しちゃうんだろう――ってことらしい。だから例の幽霊も、おれの部屋で亡くなったとかではなさそうとのこと。
 くわえて、どうもおれの体質は霊をひきつけやすいらしく、
「あれだな、稲川淳二とおなじで『この人なら話を聞いてくれそう』って霊に思われるんだよ。お前、ひとがよさそうに見えるから」
 なんだそうだ。
「だからあんまり深入りすると、取り返しつかくなるぞ。そのうち」
 そう言ってけらけらと笑うH先輩のお袋さんは、一応本業の現役霊媒師のようで、「――お守り? そんなもん気休めだよ、気休め。さっさと引っ越せ」とのありがたいアドバイスまでつけくわえてくれた。
 さて、そうなってくるとおれも身勝手なもんで……。
 居直って楽しんでた幽霊との同棲も、ちょっと考えものになってくる。
 いぜんとして幽霊は出てきてくれてたし、そんな幽霊に愛着さえ感じ始めてきたのはたしかだけど、部屋じゃなくて自分自身にとり憑いてくるなると話はべつだ。
 そのころからおれは「同棲ネタ」も披露しなくなってきたし、幽霊との背徳的なプレイにいそしむこともなくなっていった。
 友人たちもさすがに飽きたのか、もうたまにしかその話はでない。
 そんなこんなで、なんだか武勇伝に水をさされたような気になっていたおれが、
「……どうすっかな、マジで引っ越したほうがいいかなぁ」
 と本気で思い始めていた矢先、今度は友人づてで不吉な知らせが入る。まるでなにかが背中を押しているか、でなけりゃうしろ髪でもひっぱってるみたいに。
 ――群馬の話 24へ
#実話怪談 #体験談 #わりと長編



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