群馬の話 28(最終話)

文字数 762文字

 そうして再度の引っ越しから数週間後――。
 幽霊との甘美な同棲生活をすっかり過去のことにしたおれは、新・大学生活をエンジョイしながら、二度目の冬休みをむかえて実家へ帰省していた。
 どうにか三年進級のめどもついて、その報告がてら家族で飯を食った。
 ひさびさに食ったお袋の飯はやっぱり美味かったし、離れて暮らして適度な距離感がお互いにつかめたのか、ガキのころ殴り合いの親子げんかしてた親父とも、とりあえず愛想笑いしながら酒を飲めるようにもなった。
 が、その席で、お袋がふと思い出したように妙なことを言いだす。
「そういえば、ほら、あの前のアパート変な部屋だったねぇ」
 ちょっとビクッとしながら、「……へぇ、なにが?」とすっとぼけて聞いてみるおれ。
 するとお袋が待ってましたとばかりに、雑誌の切れはしかなにかに書いたメモをエプロンのポケットから取りだした。
「いやねぇ、初めて見に行ったときから変な感じはしてたんだけど、ほらこれ……引越しの手伝いに行ったときのメモ。ちゃんとあのときのことが書いてあるだろう?」
 ……なんで今さら、そんなことひっぱりだすんだよ。
 にこにこ笑うお袋からメモを受け取ると、おれは顔を引きつらせて内容を確認する。
 切れっぱしのメモには、たしかにお袋の字でこう書いてあった。
『時計の音がうるさくて眠れない。引っ越しの支度をしていて手を止めると、うしろでも荷づくりをしてるような音がする』
 そして怪訝そうに眉をひそめて、お袋は誰にともなくつぶやいた。
「おかしな話だけど、もしかすると誰か一緒に引っ越ししてたのかもしれないねぇ」
 ――群馬の話 おしまい。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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