遺影

文字数 360文字

 私の遺影の前で、家族たちがしくしくと泣いている。
 父も母も、妻も娘も、声を殺して告別のこの日をこころから悼んでいる。
 焼香のたびにかけられる参列者のなぐさめの言葉が、その涙に拍車をかけていた。私は棺桶のなかで、そのむせび泣く声をきいている。
「――では、出棺です。ご遺族の方は火葬場のほうへ」
 葬儀屋の宣言で、とどこおりなく粛々と儀式は進行していった。
 あとは焼かれて灰となり、私も母なる大地へと還るだけ。
 どこにでもある、ありふれた葬儀の風景……。
 ただひとつ普通とちがうのは、私がまだ死んでいないということだけだ。
 生前葬が当世のはやりだというが、はたして本当にこれであっているのだろうか?
#ホラーポエム




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み