群馬の話 20

文字数 793文字

 そいつの名前は、とりあえず仮名でEにしておくことにする。
 Eはおれの体のことをすごく心配してくれて、
「とり殺されちゃったりしたら、シャレにならないよ?」
 と、助言までしてくれた。
 でもそのときのおれは、けっこうな人気者気分だったし、率直にいうと意外と甘美な幽霊との生活をいまさらやめるのも惜しくなっていた。勝手に植えつけた「お隣のお姉さんのイメージ」が先行しているとはいえ、ちょっと情も移ってきちゃってたしね。
 だからEの助言を右から左に聞きながしていたおれは、
「別に体調が悪くなったりもしてないし、心配しすぎなんじゃね?」
 と、むしろのんきにかまえていた。
 そんなおれに真顔で食い下がるEは、折衷案としてある提案をする。それが、
「じゃあ、とりあえず先輩に〝視える〟人がいるから、一回だけその人と会ってみてよ。それで問題なさそうなら、俺も納得するから」
 というものだった。
 まあ、いまだから正直に言うとそのときのおれは、
「え~、幽霊よりそーゆー〝自称霊能者〟のがあやしくね?」
 くらいに思ってたんだけど、Eはいいやつだったし熱意に負けて了承した。どっちにしろ、それで引っ越しを考える気もさらさらなかったし。
 それでもEはよろこんで、おれがゴネ始めないように超速で段取りを整えてくれた。
 ……そして、約束の夜。
 Eにつれられてしぶしぶたずねた学生寮(といっても普通のアパート形式だったけど)で待っていたのが、ショートショートの「ばちあたり」でおれを橋のうえに置き去りにした、〝自称霊能者〟どころか心霊マニアの悪童、H先輩その人だった。
 こいつがやっと出そろった、この話の最後のキーパーソンになる。
 ――群馬の話 21へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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