ユースホステル

文字数 785文字

 ユースホステル、ってどんな施設かわかる人、いまはどれくらいいるかな?
 簡単に言ってしまえば男女別の相部屋が基本の簡易宿泊施設で、寝室のほかに食堂とか談話室とか共用スペースを備えた、格安の宿のことを差している。
 寝室には二段ベッドが整然とならんでいて、利用者はチェックインするとそのうちの一段を個人スペースとしてあたえられる寸法だ。
 この雑多な雰囲気が、また旅の高揚感を特別なものに演出してくれる。
 都心部ではカプセルホテルの台頭でじょじょに需要も減ってきているようだけど、まだまだ地方旅行や登山の友として、利用するファンも少なくはない。かくいう私も、そんなユースホステル愛好者のひとりさ。
 その日も昼間の登山行の心地よい疲れとともに、消灯時間もそこそこに私は床についた。あたえられたのは、二段ベッドのひとつの下段スペースだった。
 ところが深夜、ぎしぎしとベッドのはしごのきしむ音でふと目を覚ます。
 ――おや、談話室にまだ誰かいたのかな?
 私は寝ぼけまなこでぼんやり考えながら、暗やみのなかで上段スペースに上ってゆく、薄ぼんやりとした人影を見送っていた。
 そして目覚めたつぎの日の朝、チェックインの際にオーナーから聞いていた一言を思い出して戦慄することになる。
「ああ、いらっしゃい。今日はお客さんひとりだから、好きなベッドでいいですよ」
 ぞっとしてすぐに上段を覗いてみると、そこには綺麗に整えられた寝床があり、人影どころか誰かが寝泊まりした形跡すら確認できなかった。
 世のなかには、本当にあるんだねぇ。不思議なできごとってのが――。
 ……これは毎年恒例の夏登山でたびたび顔を合わせる、Kさんから聞いたお話。
#実話怪談 #聞いた話 #ショートショート




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