ねるとんトンネル
文字数 591文字
なにもべつに、ボクはできないから未経験なわけではない。
ただ不幸なことに、リアルは不条理に満ちている。ボクの初めてを捧げるにあたいする可憐で純真で清らかな乙女は、二次元のなかにしか存在しないのだ。……と、今日まで硬く信じて疑ってこなかった。
けれどボクは、このトンネルで出会ってしまった。
まだ穢れを知らない、少女のような大きくて真っ黒な瞳。肩口で揃えられたつややかな髪は軽やかで、まるであわい水彩画から抜け出してでもきたように、無垢を象徴する白いワンピースとのコントラストをやわらかな斜陽のなかに浮かびあがらせている。
――そう、まさに彼女はボクの理想そのものだった。
たとえそれが、この世のものでなくても構わない。いやむしろ、幽霊というのは我ながら盲点だった。現世 に真の美少女が存在しないのなら、天使は幽世 にこそ存在する。そんなことは自明の理ではないか!
そしてボクが感動にうち震える手をそっと差し出すと、彼女は眉を顰めてこう言った。
「……あ、ごめん。あんたタイプじゃないわ」
ペッと唾を吐いてかき消すように薄れてゆく彼女の姿を、ボクは必死に涙をこらえながら見送っていた。
やっぱり三次元には、ろくな女が存在しない……。
#ホラーポエム
ただ不幸なことに、リアルは不条理に満ちている。ボクの初めてを捧げるにあたいする可憐で純真で清らかな乙女は、二次元のなかにしか存在しないのだ。……と、今日まで硬く信じて疑ってこなかった。
けれどボクは、このトンネルで出会ってしまった。
まだ穢れを知らない、少女のような大きくて真っ黒な瞳。肩口で揃えられたつややかな髪は軽やかで、まるであわい水彩画から抜け出してでもきたように、無垢を象徴する白いワンピースとのコントラストをやわらかな斜陽のなかに浮かびあがらせている。
――そう、まさに彼女はボクの理想そのものだった。
たとえそれが、この世のものでなくても構わない。いやむしろ、幽霊というのは我ながら盲点だった。
そしてボクが感動にうち震える手をそっと差し出すと、彼女は眉を顰めてこう言った。
「……あ、ごめん。あんたタイプじゃないわ」
ペッと唾を吐いてかき消すように薄れてゆく彼女の姿を、ボクは必死に涙をこらえながら見送っていた。
やっぱり三次元には、ろくな女が存在しない……。
#ホラーポエム