送り盆

文字数 370文字

 夕暮れの墓地では、カナカナとひぐらしが鳴いている。
 私は提灯を消して墓参りをすませると、寺の片すみで精霊馬をお焚き上げした。
 ――ああ、これでやっと一段落ついた。
 ゆらゆらと夕焼けの空に昇ってゆく煙を見上げながら、ぼんやりとそんなことを考える。私もいつかは、こうして天に召されるのだろうか?
「……それはそれで、寂しいものだな」
 妻が他界してはじめての盆は、そうして厳かに終わりを告げた。
 車にもどってセルまわすと、耳もとに後部席からそっと妻の囁きが聞こえてくる。
「大丈夫ですよ、あなた。これからもずっと一緒ですから」
 そして轟音を立てて、私の車は炎上した。
 それが私を送り出す、鎮魂の施火(せび)となった――。
#ホラーポエム




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