ナカソネ
文字数 623文字
ある日、こんな夢を見た。
夢のなかの私はまだ十二、三歳の少年で、どこか既視感のある雑木林のなかを必死に何者か……いや、何者か〝たち〟から逃げまどっている。
走るたびに顔を叩く木々の小枝が、私の頬を裂き一筋の血をにじませた。
そのとき背後から、「いたぞ、ナカソネだ!」という幼い誰かの声がひびき、周囲の繁みがガサガサと獰猛な音を立ててざわめきはじめる。
つづけてバタバタと腐葉土を踏み荒らす、ちいさくて騒がしい足音……。
「いいかげんに、観念しろ!」
「逃げられると思ってんのか!」
威嚇するように飛びかう同級生たちの怒号と、さらに私を追い立てる先程の幼い声――たしかに聞き覚えのある、けっして忘れられるはずのないその無邪気な声に怯えながら、それでもしゃにむに走りつづける私の視界に、やがて木立の隙間からのぞく国道の風景が飛びこんできた。
そこで目が覚めて、私は鈍い痛みの残ったこめかみに手をあてる。
「……そうか、まだ成仏していないのか、ナカソネよ」
年老いてすっかりしわがれてしまったが、私のくちから出たのは、まぎれもなく夢のなかでナカソネを追い立てた、無邪気な誰かの声だった。
そして私はふらふらと家を出て、県境の雑木林までひたすら車を走らせる。あの日、国道に飛び出して轢死した、ナカソネと決着をつけるために……。
#ホラーポエム
夢のなかの私はまだ十二、三歳の少年で、どこか既視感のある雑木林のなかを必死に何者か……いや、何者か〝たち〟から逃げまどっている。
走るたびに顔を叩く木々の小枝が、私の頬を裂き一筋の血をにじませた。
そのとき背後から、「いたぞ、ナカソネだ!」という幼い誰かの声がひびき、周囲の繁みがガサガサと獰猛な音を立ててざわめきはじめる。
つづけてバタバタと腐葉土を踏み荒らす、ちいさくて騒がしい足音……。
「いいかげんに、観念しろ!」
「逃げられると思ってんのか!」
威嚇するように飛びかう同級生たちの怒号と、さらに私を追い立てる先程の幼い声――たしかに聞き覚えのある、けっして忘れられるはずのないその無邪気な声に怯えながら、それでもしゃにむに走りつづける私の視界に、やがて木立の隙間からのぞく国道の風景が飛びこんできた。
そこで目が覚めて、私は鈍い痛みの残ったこめかみに手をあてる。
「……そうか、まだ成仏していないのか、ナカソネよ」
年老いてすっかりしわがれてしまったが、私のくちから出たのは、まぎれもなく夢のなかでナカソネを追い立てた、無邪気な誰かの声だった。
そして私はふらふらと家を出て、県境の雑木林までひたすら車を走らせる。あの日、国道に飛び出して轢死した、ナカソネと決着をつけるために……。
#ホラーポエム