深夜配給

文字数 740文字

 夜、仕事から帰ると家の前に牛丼が置いてあった。
 ――フードデリバリーの誤配かな?
 いぶかしく思ってビニール袋を持ち上げると、ふいに背後から、愛くるしい女の子の声が聞こえてくる。
「牛丼、おいしいですよ、牛丼……」
 まだ小学校の、二、三年生くらいだろうか?
 ぎくりとして振り向くと、真っ黒なロングヘアーで顔を隠した幼女が、おれの手にさげた牛丼を指さしながら佇んでいる。
「そ、そう……よかったら、食べちゃっていいよ?」
 ぞっと背筋に悪寒がはしったおれは、そう告げてビニール袋を足もとに置き直すと、そそくさと部屋に入った。
 ――なんだったんだ、いまの?
 不気味には思ったものの、シャワーを浴びて出てくるころには、ドアスコープから覗く玄関のそとに、女の子の姿は見当たらなくなっていた。
「……まったく、最近のガキはイタズラも手が込んでやがる」
 そもそもこんな時間に、親はなにしてるんだ?
 そんなことを思いながら一服し、晩酌しながらうたた寝してしまった深夜、
 ――ピンポーン。
 と、いきなりドアチャイムの音。
 誰だこんな時間に? むっとしてドアをにらみつけると、ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポン、ピンポンピンポンピンポンピポピポピポ、ピンポーンと、いやがらせのようにチャイムが鳴りひびく……。
 さすがに頭にきてドアスコープを覗くと、そこにはまたあの幼女の姿が。
「おいしいですよ、おいしいですよ、おいしいですよおいしいですよおいしいですよ――」
「ひっ……!」
 思わずあと退ると、今度は部屋のなかから無邪気な声がする。
「……おいしいですよ、牛丼」
 振り向いたおれの真うしろに佇んだ幼女は、カビだらけの崩れた顔でにっこり微笑むと、うれしそうに牛丼のビニール袋をさし出してきた。
#ホラーポエム






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