群馬の話 16

文字数 686文字

 そして数か月後、もうおれはわざわざ部屋を出る気もなくなっていた。
 Yがしばらく一緒に住んでくれたおかげで、この手の話でよく聞く「慣れればそんなもん」的な心境になってきてたこともあったし、大家さんが心配してたまに様子を見にきてくれたりもしてたからからね。
 いま考えると、たちの悪いクレーマー対策だったのかもしれないけど……。
 そんな感じで大学生活にも幽霊にも慣れ、「幽霊と同棲してる」を持ちネタにまでできるようになってきたころには、おれもYとか新しくできた友だちとかと一緒になって、授業そっちのけで遊び歩くようになっていた。
 たまにはお隣のお姉さんと部屋の前とかで顔を合わせることもあって、そんなときは挨拶したりちょっと世間話したりできるようにもなった。
 聞いてみるとお姉さんはアパートの隣の病院に勤めてる看護師さんで、初めて会ったときみたいにちょこちょこ朝帰りするのは、夜勤明けだってことも判明した。
 つくづくYの壁ドンのときは、お姉さんが夜勤でよかったと思う。
 そうなってみると、ツボさえ押さえておけば部屋の居心地はそれほど悪くなかったし、なにより思春期まっさかりだったおれは、「お隣のお姉さんがちょっと気になってたから引っ越す気がなくなった」こともあるのは正直に白状する。
 ただし期待させるのもなんなのでつけ足しておくと、お姉さんとの仲はそれ以上進展することは最後までなかった。お姉さんとは――。
 ――群馬の話 17へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編



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