影おに
文字数 521文字
よく晴れたある夏の日、ビルの隙間に影法師がうずくまっていた。
ぎょっとして立ち止まった私は慌てて周囲を見まわすが、ほかの通行人がそれに気づいた様子はない。みな平然と、影の前を通りすぎてゆく。
まるで強烈な日差しで路地の路面に焼きつけられたような真っ黒な影は、膝を抱えて座り込んだ姿勢のまま、ぶつぶつとなにか呟きつづけている。
「さんまんごじゅういち、さんまんごじゅうに、さんまんごじゅうさん……」
――通りすぎた通行人の数だろうか?
耳を澄ましてみれば、うつろに響く影の声はなにかの数をカウントしている。
急に込み上げてくる嫌な予感に、私は思わずその場に背を向けた。
と……。
「見ぃつけたぁ」
背後から掛かる歓喜の声に、ふっと私の意識は立ち眩みのように遠のいていった。目が覚めると私は、ビルの隙間に影法師として焼きついている。
そしてまた、引きつがれた影おにの遊戯は果てしなくつづいてゆく。
「……さんまんごじゅうご、さんまんごじゅうろく、さんまんごじゅうなな」
さあ、いいかい? かくれんぼのはじまりだよ。
#ホラーポエム
ぎょっとして立ち止まった私は慌てて周囲を見まわすが、ほかの通行人がそれに気づいた様子はない。みな平然と、影の前を通りすぎてゆく。
まるで強烈な日差しで路地の路面に焼きつけられたような真っ黒な影は、膝を抱えて座り込んだ姿勢のまま、ぶつぶつとなにか呟きつづけている。
「さんまんごじゅういち、さんまんごじゅうに、さんまんごじゅうさん……」
――通りすぎた通行人の数だろうか?
耳を澄ましてみれば、うつろに響く影の声はなにかの数をカウントしている。
急に込み上げてくる嫌な予感に、私は思わずその場に背を向けた。
と……。
「見ぃつけたぁ」
背後から掛かる歓喜の声に、ふっと私の意識は立ち眩みのように遠のいていった。目が覚めると私は、ビルの隙間に影法師として焼きついている。
そしてまた、引きつがれた影おにの遊戯は果てしなくつづいてゆく。
「……さんまんごじゅうご、さんまんごじゅうろく、さんまんごじゅうなな」
さあ、いいかい? かくれんぼのはじまりだよ。
#ホラーポエム