おじさんだってつらいんだよ

文字数 463文字

「おじさんだって、つらいんだよ」
 そういっておじさんは、ぺちゃりと日本酒を舐めた。
 一升瓶や紙パックではなく、ガラスのカップに入った一杯売りのやつだ。
 ぼくはなにがつらいのかよくわからなかったけれど、さからうと面倒くさそうなので、「ああ、そうですか、大変ですね」としっぽを振っておくことにする。
 するとおじさんが、
「これでもむかしはモテたんだよ。声かけただけで、女の子なんかキャーキャーいっちゃってさ……」
 というから、
「それはちがう意味のキャーキャーじゃないんですか?」
 とぼくが聞くと、
「うるさい、発情期まえの若造はだまってろ!」
 とひと唸りして、おじさんはしっぽを巻いて逃げていってしまった。
 その背中があまりにもさびしそうで見送っていると、
「なに見てんだよ」
 と、またぞろおじさんは牙をむいてくる。
 ……やれやれ、これが本当の負け犬の遠吠えだ。
 ×月×日 人面犬の日記より抜粋。
#ホラーポエム




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