群馬の話 8

文字数 713文字

 また長くなるからサクッとはしょって、さっさと手荷物をまとめるとアパートから逃げ出したおれは、電車に飛び乗った。
「部屋にお化けが出るから、今すぐ引っ越したい」
 なんてこともまさか言えないから、とりあえず「忘れもん取りにもどった」ってことにして、どうにか無事に実家に避難できた。
 「……なんかあったの?」
 っていきなり聞いてきたお袋の反応だけが妙に鋭かったけど、この人が巻き込まれるのは、まだもうちょっと先の話。
 とにかく誰かに話を聞いてもらいたかったおれが相談相手に選んだのは、高校からのダチで大学まで一緒になった、今でもボチボチ付き合いのあるY(仮名)のやつだった。
 こいつは「ひとり暮らしとかめんどくせー」って理由で片道四時間かけた実家からの通学を選択してたんだが、まずおれとおなじくらいバカだから「部屋にお化けが出る」とか言ったら絶対に食いついてくる自信があった。
 なんのかんの理由をつけて遊びに行ってその話をふったら案の定、
「なにそれおもしれー、俺も見に行く!」
 って、速攻で乗っかってきた。
 だから、聞こえるけど見えねぇっつーの……。
 けどそんなこんなで守備よく話はまとまって、つぎの日から入学式までの二日間、おれの群馬のアパートにはYが泊まりにきてくれることになった。
 とはいえ、こいつは「すげーバカだからお化けとか怖がらない」だけで、霊感があるわけでも霊が祓えるわけでもない。
 それでもおれにとっては、ムチャクチャありがたい話だった。
 ――群馬の話9へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み