ニアミス

文字数 508文字

「……ねぇ、あなた座敷わらしって見たことある?」
 真夜中の廊下でふいに声をかけられたとき、ぼくは心底びっくりした。
 ふりむくとうす暗い行燈の灯りにぼぉっと照らされて、おかっぱ頭の可愛いらしい女の子の姿が闇に浮かび上がっている。
「この宿にはね。出るんですって、座敷わらし」
 そう言って女の子は、楽しそうにくすくすと笑う。
「会えると幸せになれるらしいわよ? あなたも会えるといいわね」
 言い残してパタパタと廊下の角を曲がってゆく女の子の背中を、ぼくはただ茫然と見送ることしかできなかった。
 まさか、向こうから声をかけてくれるなんて――。
「……やれやれ、これもテレビの影響かな?」
 ぼくら物の怪の存在を、ひろく布教してくれたのはやはりアニメの功績だろう。
 でもそれなら、ちゃんと「座敷わらしには男の子もいる」ってことくらい、もっと大々的に宣伝してもらわないと。
 いまさっきの可愛いお客さんの笑顔を思い出しながら、ぼくは苦笑いを浮かべた。
 ――それにしても、いまどきの子供は宵っ張りで困る。
#ホラーポエム




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