群馬の話 10

文字数 625文字

「えー、やっぱこれ隣の部屋の音だろ?」
「なことねぇよ、ドアのすぐ向こうで聞こえてんじゃん!」
「手抜き工事って、そんなもんだって」
 酔ってるのか眠いのか、それとも待ちくたびれて飽きたのか、飲んでる時とはうって変わってわりと投げやりなY。
 まあ、でも言われてみると……。
 前回と違ってひとりじゃないせいか、おれも少し冷静――というか、なんでも都合よく解釈する科学脳になっている。だんだんそんな気がしてきた。
 ――や、待て待て。
 じゃあ、あのカーペットを這いずる変な音は?
 耳に吹きかけられた女の息は?
「だから、それこそお前が酔っぱらってたんだろ」
 必死に反論するおれに、急に面倒くさげなテンションになったYは、
「こーゆーのは、こーすりゃ解決すんだよ」
 そう言って寝袋から這い出すと、科学万能時代の究極除霊法を自ら実践してみせる。深夜の不可解な物音を一発で諫めるための鎮魂の儀式。
 すなわち、本来の意味での「壁ドン」だ。
「バカ、やめろって! 違ったらおれがやばいやつだと思われるだろ!」
 おれの制止もむなしく、Yのやつは拳固で壁をドン!
 小噺ならここで洗い物の音がやんで、めでたしめでたし……なんだろうが、台所のカチャカチャ音は、それでも怯むことなくずっとつづいていた。
 ――群馬の話11へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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