群馬の話 14

文字数 643文字

 悪びれた様子もなく、物怖じせずズケズケと切り出すY。
 ただちょっと意外だったのは、聞かれたお姉さんのほうが警戒を強めるでもなく、「ああ~」みたいな微妙な得心顔を見せたところだった。
「さあ、わたしはそういう話は聞きませんけど。……確かに、出入りのはげしい部屋ではありますよね。そこ」
 ちょっと言いづらそうにおれたちに告げると、かるく頭をさげて隣の部屋に入ってゆくお姉さん。関係ないけど、おれもYもその仕草にちょっとドキドキした。
 けど、そのドアが閉まる直前、というかお姉さんが部屋に入りかけたところで、
「でも、悪いものじゃないと思いますよ。たぶん……」
 みたいなことを助言してくれたのには、少しといわず驚いた。
 ……なんだ、悪いものじゃないって?
 もしかしなくても、あれのことなんじゃないのか、それ?
 あらためてゾッとした俺はまたビクビクし始めるわけだけど、これを引っ張ってもしょうがないので、その夜のおれたちは洗い物の音がしないように電気をつけたままで寝たことと、そのせいで次の日寝ぼけて(本当は酒が残ってて)電車を乗りまちがえて、大学の入学式に盛大に遅刻したことだけ補足しておく。
 Yはその足で自分の家に帰る予定だったんだけど、あまりにもおれが怖がるもんだから、そこから半月くらい宿泊期間を延長してくれた。
 ――群馬の話 15へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編




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