げんまん

文字数 372文字

 突然の吹雪でベースに閉じこめられて、すでに一昼夜がすぎた。
 ばさばさと風雪に震えるテントの中で、私は白い闇とひとりきりで戦っている。
「やっぱり、初心者が雪山なんてくるもんじゃないな……」
 そんな自戒にも似たつぶやきが、凍えるくちから思わずこぼれおちた。
「お願いだから、無事に帰ってきてね」
 彼女とかわしたその約束だけが、いまの私のささえだった。
 ――そうだ、なにがなんでも生き残らなくては。
 その勇気を奮い立たせるために、私はもう感覚の消えた指先を手袋からそっと抜き取る。
 「あ……」
 だが彼女とゆびきりをした小指は凍りつき、ぽきりと音を立てて根元から折れた。
 テントの外では、また吹雪がつよくなったようだ……。
#ホラーポエム




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