群馬の話 4
文字数 881文字
ズリ、ズリ、ズリ……。
音の正体はやっぱりわからなかったけれど、どうもこっちはカーペットの上をなにかが這いずっている音のようだった。
カーペットはおれが持ち込んだものじゃなく最初から敷き詰めてあったもので、前の住人が残していったのか、あるいは大家さんがわざわざしつらえたのか……どちらにしろ、昼間に踏んだ感じからすると下はたぶん畳だった。
……ズリ、ズリ、ズリ。
声も出せずにベッドでプチパニックになっているおれをよそに、カーペットを這いずる奇妙な音はつづく。
耳を澄ませてみると、その音はテーブル――というか、食卓がわりに部屋の真ん中に置いたちゃぶ台(?)のまわりを、ゆっくり何回もまわっているらしかった。六畳一間に家具を詰め込んでるんだから、本当はそんなスペースあるはずがないのに。
ズリ、ズリ……ズリ。
おれは冷や汗をかきながら必死に考える。
今どきドブネズミでも出たか? それともどっかから、ノラ猫でも迷いこんだか?
そんなわけないだろう、とか鼻で笑わないでほしい。追い詰められてテンパった人間の思考なんて、いざとなったらこんなものだ。
ズリ、ズリ、ズ……リ。
と、そのとき、這いずり音が急にまたベッドのすぐわきで止まった。
ギクッと身をすくめたおれは闇に目を凝らしてみるが、もちろん猫はおろかネズミらしき影さえ確認できない。とはいえ、このままだと眠れるわけもないので、おそるおそるベッドの外に身を乗り出してみる。
すると今度はそのうらをかくみたいに、左耳のすぐうしろに「はぁ……」っと女の人の息がかかった。
や、実際に声が聞こえたわけじゃないんだけど、なぜかハッキリ「女の人の息だ」ってわかる生温かい空気が耳のうらで蠢いた。
ヒッ、とか、ハヒッ、とか、そんな情けない悲鳴をおれはそのとき漏らしていたと思う。
とにかくおれは、そのままダッシュで部屋から飛び出していた。
――群馬の話5へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編
音の正体はやっぱりわからなかったけれど、どうもこっちはカーペットの上をなにかが這いずっている音のようだった。
カーペットはおれが持ち込んだものじゃなく最初から敷き詰めてあったもので、前の住人が残していったのか、あるいは大家さんがわざわざしつらえたのか……どちらにしろ、昼間に踏んだ感じからすると下はたぶん畳だった。
……ズリ、ズリ、ズリ。
声も出せずにベッドでプチパニックになっているおれをよそに、カーペットを這いずる奇妙な音はつづく。
耳を澄ませてみると、その音はテーブル――というか、食卓がわりに部屋の真ん中に置いたちゃぶ台(?)のまわりを、ゆっくり何回もまわっているらしかった。六畳一間に家具を詰め込んでるんだから、本当はそんなスペースあるはずがないのに。
ズリ、ズリ……ズリ。
おれは冷や汗をかきながら必死に考える。
今どきドブネズミでも出たか? それともどっかから、ノラ猫でも迷いこんだか?
そんなわけないだろう、とか鼻で笑わないでほしい。追い詰められてテンパった人間の思考なんて、いざとなったらこんなものだ。
ズリ、ズリ、ズ……リ。
と、そのとき、這いずり音が急にまたベッドのすぐわきで止まった。
ギクッと身をすくめたおれは闇に目を凝らしてみるが、もちろん猫はおろかネズミらしき影さえ確認できない。とはいえ、このままだと眠れるわけもないので、おそるおそるベッドの外に身を乗り出してみる。
すると今度はそのうらをかくみたいに、左耳のすぐうしろに「はぁ……」っと女の人の息がかかった。
や、実際に声が聞こえたわけじゃないんだけど、なぜかハッキリ「女の人の息だ」ってわかる生温かい空気が耳のうらで蠢いた。
ヒッ、とか、ハヒッ、とか、そんな情けない悲鳴をおれはそのとき漏らしていたと思う。
とにかくおれは、そのままダッシュで部屋から飛び出していた。
――群馬の話5へ。
#実話怪談 #体験談 #わりと長編