Re:袖引き小僧

文字数 656文字

「――なぁなぁ、袖引き小僧って知ってるか!」
 興奮気味のタカシくんがそう言ってきたのは、朝のHRの直前だった。
 タカシくんは遅刻魔なので、だいたい朝なにか言ってくるときは、このタイミングだ。机の上にほうり出したランドセルから教科書を引き出しながら、タカシくんはつづける。
「おれ、昨日そいつに会ったんだぜ!」
 そいつと言われてもよくわからないので困ってしまうが、タカシくんが言うには、なんでも袖引き小僧というのはこの地方につたわる妖怪なのだそうだ。
 その名のとおりちいさな子供の姿をしていて、夕暮れどきになると歩いている人の袖をクイクイと引っ張ってくるらしい。
 でもおどろいて振り向くと、そこには誰の姿もないという。
 ……じゃあ、なんで小僧だってわかるんだよ。
 そんな風にも思ったけれど、ぼくはその話を聞いて隣のイシイさんちのヒロくんのことをちょっと思い出した。ヒロくんはぜんそく持ちの幼稚園児で、道端でほっさが起きて動けなくなると、よくそうやって通行人に助けをもとめていたのだった。
「でさ、昨日おまえのうちから帰る途中の河原で、おれその妖怪に会ったんだよ。だから川に突き落として、退治してやった!」
 得意げにタカシくんが胸を張ったところで、先生がきて話はおひらきになった。
 ……昨日から行方不明だったヒロくんの遺体が川からあがったのは、そのつぎの日の夕方になってからのことだった。
#ホラーポエム




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