冥府かいだん

文字数 503文字

 この廃病院でトシキとはぐれて、もうどれくらい時間がたっただろうか?
 わたしの体感だと、ようやく見つけた階段を下りはじめて、たぶん一時間……いや、もしかするとまだ数分しかたっていないのかもしれないし、すでに何日も何日も、暗闇のなかをさまよっているのかもしれない。
 ……それとも、これは上っているのだろうか?
 そんな感覚さえあいまいになったまま、ぴちゃぴちゃと水の滴る音と、なにかの蠢く気配のなかをひたすらわたしは進んでゆく。
「――なんなのよ、もう! はやく助けにきなさいよ!」
 耐えきれなくなって思わず叫ぶと、わんわんとこだまする反響のなかに、くすくすと誰かがわらうかすかな声がまじった。
「だから、いやだって言ったのに……わたしはまだ、いきたくなかったのに……」
 朦朧とする意識を必死につなぎ止め、くずれかけの(きざはし)をもう一段踏みしめる。
 すると暗がりのむこうに、ぼぅっと錆びついた階数表示のプレートが浮かび上がった。
 わたしはいったい、どこまでゆけばいいのだろう……。
#ホラーポエム




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