Re:隙間女

文字数 463文字

 わたしはちいさいころから、隙間が苦手だ。
 閉じかけのドアの隙間から、ビルとビルの隙間。もっといえば柵の格子の隙間や、鏡にうつった自分の歯の隙間でさえ、恐ろしくて目をそむけることがある。
 ……そして、その理由は明白だ。
 子供のころにお母さんから聞かされた、隙間女の怪談がトラウマになったせい。
 ある日ある男が自分の部屋で視線を感じ、不審に思って部屋中を探してみると、タンスと壁の隙間から女が覗いていて――という、あの隙間女の都市伝説。
 でも、幼いわたしが怯えたのは、隙間女の話にではない。
 ほんとうに怖かったのは、それを私に語って聞かせてくれたときの、お母さんの顔……まるでどこか別の世界でも見つめるような、微妙に焦点のずれたお母さんの笑顔だった。
 それからすぐに行方しれずとなったお母さんは、いまでもいろいろな隙間の向こう側からわたしのことをじっと見つめつづけている。
 ほら、あんな風にいつも――。
#ホラーポエム




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