第53話 加工禁止強化月間
文字数 1,130文字
「それでわたしの所にお鉢が回ってきたという訳ですね」
ニカルはノン加工の天然素材だ。
「メニューの写真と実物が違うってな些細な問題だけじゃなく、犯罪行為に使われるケースを特に遮断したいとのお達しだ」
日本政府にしては、まともなことをやり出したな。
「メニューの写真と違うのは大問題ですよ!」
相変わらず色気より食い気だな。
「マッチングアプリで加工写真を使わない方が珍しいだろうが、そうしたものを一掃したらどうなるか、一ヶ月間テストしたいらしい」
インフルエンサーの顔が同じに見えるのは、年のせいじゃないぞ。
「一昔前は『テレビで見るより実物の方がお綺麗ですね!』っていうのが有名人に対する挨拶だったのですが」
今は違うって言うのか? ずいぶん失礼なやつだな。
「スマホを一人一台持つようになって情報を得ることは楽になりましたが、そうした偽情報に奪われる手間と時間も相当なものです」
「言えてるな。そのせいで実になる行動へ移すのが、妨害されてる側面はある」
大したことで無いように見えるが、人心がここまで虚妄に囚われるのは、国家的・世界的大損失だ。
「わたしの仕込みは完了しています。神籬さん、どうぞ成果を御覧ください」
「どれどれ・・・」
俺はSNS上で有名なインフルエンサーのページへと飛んだ。
「誰だ・・・これは?」
加工が取れて判別がつかなくなっている。いまはまだ、本人もフォロワー達も正体に気付いていない。ニカルがエンターを押せば、化けの皮が剥がれる。
「これは動画加工アプリの無効化ですが、身分の騙りや狂言、偽ブランドの販売、囮行為、美人局などありとあらゆる悪行を白日の下に晒します
囮は意見の分かれるところだが、こいつの手に掛かったら、人工的施術前の姿も割り出しそうだな。
「たやすいことです。この強化月間中に活動を停止したところは、まあ、そういうことですね」
寄ってくる方も素性を誤魔化してるし、タヌキとキツネの化かし合いだな。
「誇大広告ってのも、グレーなところを責めてくるよな。みんなが悩んでるところを突いてきやがる」
乗せられるほうも乗せられる方だが、謳ってる効果から著しいほど乖離のある場合が問題だ。特定商取引法第12条違反だぜ。
「『あなたもあの有名人に会える』とかもですね。若年層にスマホを持たせる是非が問われる訳です」
「ところが、だ。そうした虚偽の宣伝をするのは何も業者だけじゃない。国政を司る連中にもそのフィルターを掛けてやらないとな」
「手短にしたいなら、JAROに通報ですね」
邪狼を働くと、蛇牢へぶちこまれるぜ。