第140話 ターンパイク定理

文字数 717文字

 メシヤがイエスの仕事に付き添っている。今日はワーゲンバスではなく、T3ヴァナゴンだ。ボディはドラゴンズカラーに塗装し、中もイエスの好きなようにいじってある。

「大工さんって言ったらハイエースだけど、僕もこっちのほうが好きかなあ」
 一応、最新モデルという設定である。

「作りはちょっとした違いなんだがな。それだけで印象ががらっと変わる」
 ナビはセットされてある。

「ああ、そうかあ。遠回りみたいだけど、一旦あそこのインターまで行って降りるのが最速のルートなんだね」
 二点間を直線で結ぶルートからははみ出すが、それが最適経路であることは普通にある。
「経済学でもそんな用語があったな。ゴール目掛けて一直線ってのが、非効率だったりするんだ」
 これをすればいいだけじゃないかという話には、何か障害が立ちふさがっているものである。そうは簡単にいかない。

「小難しい話をしてるじゃねえか」
 後ろに大工の源さんが座っていた。

「すみません、生意気言って」
 十九川工務店の跡取りであるイエスだが、まだまだ下っ端だ。

「イエス、前にあんなことがあったよなあ。もっと手間を掛けりゃ綺麗に直った箇所を、道具取りに行くのを面倒がってその場しのぎにしたよな?」
 針の(むしろ)である。

「申し訳ありません・・・」
 作業工程的には遠回りに見える方法が、結果的に早く丁寧に仕上げることが出来る。

「メシヤ、お前んとこの料理でもそうだろ? ダダクサにするととっちらかって、時間も掛かるし味も悪くなる」
 この辺りは建築の段取りと整理整頓に通じる。

「おっしゃる通りです!」
 年少者たちは、もっと大人に混じってもまれたほうが良い。

 めいっぱい働いたあと、源二郎は小僧たちに寿司をふるまってくれた。






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登場人物紹介

奇特人間大賞・藤原メシヤ。

彼の元には、いつもハチャメチャが押し寄せてくる。

お転婆娘・安倍マリア。

ギャルであり、敬虔なシスター。

メシヤを止められるのは、マリアだけ。

江戸時代から脈々と続く、大手ゼネコンの御曹司、十九川イエス。

メシヤにとって無くてはならない、心の友。

イスラエルからの留学生・裁紅谷エリ(姉)。小柄だがフィジカルお化け。最初は身分を隠していたが・・・

同・裁紅谷レマ(妹)。エリは双子の姉。落ち着いているように見えるが、9マイル先のターゲットを錆びついたマシンガンで撃ち抜ける。

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

【科納ニカル】かのにかる。科納エレクトロニクスの令嬢。子供向け番組『コンピューター・ニカルちゃん』で一世を風靡。ロンドンインペリアルカレッジを首席で卒業後は、神籬探偵事務所で助手を務めている。

【奈保レオン】なぽれおん。年齢、星籍不詳。メシヤと同じ1年G組に席を並べる。数学、歴史が得意。破天荒(誤用ではない)なメシヤの、良き理解者。

【ジェニー・オブライエン】人類史上最高峰の知性と評される宇宙物理学者。メシヤと日本贔屓。頭脳労働者のためか、結構な大食漢。研究所は大西洋の孤島だが、北伊勢市内にもよく出没する。

【必勝ミドル】ひちかたみどる。雲水翁の内弟子。凡庸な12歳であったが、五大所山の修行でメキメキと腕を上げる。先手必勝をモットーとする。

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