第140話 ターンパイク定理
文字数 717文字
「大工さんって言ったらハイエースだけど、僕もこっちのほうが好きかなあ」
一応、最新モデルという設定である。
「作りはちょっとした違いなんだがな。それだけで印象ががらっと変わる」
ナビはセットされてある。
「ああ、そうかあ。遠回りみたいだけど、一旦あそこのインターまで行って降りるのが最速のルートなんだね」
二点間を直線で結ぶルートからははみ出すが、それが最適経路であることは普通にある。
「経済学でもそんな用語があったな。ゴール目掛けて一直線ってのが、非効率だったりするんだ」
これをすればいいだけじゃないかという話には、何か障害が立ちふさがっているものである。そうは簡単にいかない。
「小難しい話をしてるじゃねえか」
後ろに大工の源さんが座っていた。
「すみません、生意気言って」
十九川工務店の跡取りであるイエスだが、まだまだ下っ端だ。
「イエス、前にあんなことがあったよなあ。もっと手間を掛けりゃ綺麗に直った箇所を、道具取りに行くのを面倒がってその場しのぎにしたよな?」
針の
「申し訳ありません・・・」
作業工程的には遠回りに見える方法が、結果的に早く丁寧に仕上げることが出来る。
「メシヤ、お前んとこの料理でもそうだろ? ダダクサにするととっちらかって、時間も掛かるし味も悪くなる」
この辺りは建築の段取りと整理整頓に通じる。
「おっしゃる通りです!」
年少者たちは、もっと大人に混じってもまれたほうが良い。
めいっぱい働いたあと、源二郎は小僧たちに寿司をふるまってくれた。